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第69話
【ソレ】はどんどん大きくなっていく。
お堂を突き破るかのように。
力の解放に【ソレ】自体が、自分を制御できないようだった。
【ソレ】は悶えるようにのたうち回る。
でも、その中で、【ソレ】の3つの金色の目が僕を捉えた。
キシャア!!!!!
【ソレ】は吠えた。
金色の触手が、口から飛び出す赤黒い触手が僕へと伸びてくる。
また僕をなぶり殺すために。
僕は拘束を解かれた瞬間、それを手にするために走り手にした物を構えた。
それはお堂にずっと飾られていたものだった。
お堂に飾られていた白い布に巻かれた古い刀だった。
僕は完全に着物がはだけた裸同然で 、しかも自分の精液やソレの粘液にまみれた姿だったが気にしている暇などない。
昔、見せてもらった時にはその刀はボロボロに錆びた鉄の塊でしかなかった。
何故、こんなものかお堂に大切におかれ、何故僕達【花嫁】にだけソレを見ることが許されるのか分からなかった。
「君達花嫁はもともとは生贄の役割ではなく、【神】のようなモノを制御するシャーマンのような存在だったのだと思うよ」
あのおじさんが言っていた。
「君達はおそらく、【神】を封じるためにも必要なんだ」
その意味がわかる気がする。
今なら。
僕達花嫁は、【神】の栄養であると同時に、この土地から動けなくするための【毒】でもあったんだ。
「最初に【神】を封じたのも花嫁だったのではないかな。そしてもしそうなら、そのための道具があるはずなんだ」
おじさんは言った。
神殺しには、条件がある、と。
「神殺しのための道具があること」
「その資格が有るもの」
このお堂に飾られる古い刀の意味は?
花嫁とは元々【神】を封じる者なのだとしたら?
「人身御供とは、自ら諦めて捧げられる者の事でもある」
おじさんは言った。
「昔そんな話してたな。そう、人身御供が神に逆らったならばそれは何なんだ?」
あの人が言った。
「昔から人身御供のふりをして、神を殺そうとする存在はなんて呼ばれるのか決まっているんだよ」
おじさんは言った。
「【英雄】って言うんだよ」
僕は布を取り去り構えた。
ボロボロの鉄クズだったはずの刀が、青く白く輝く刀剣になっていた。
僕はもう花嫁ではない。
捧げられる生贄ではない。
「僕の名前は !!」
僕は自分の名前を叫んだ。
それは奪われた名前だった。
「お前を殺す者だ!!」
僕は【ソレ】に告げた。
僕は刀を振り切った。
斬ったのは【神】だったのだろうか。
姉様の柔らかな身体を斬った気がした。
姉様の匂いもしたような気がした。
斬ったのは自分だったような気もした。
〈そうよ〉
姉様が囁く。
〈私達はあいつに喰らわれ、あいつの一部にな り ここでアイツを封じてきたの〉
姉様と共に沢山の花嫁達がいた。
僕は全ての花嫁を斬り殺していた。
叫びながら斬り殺し続けた。
何百もの花嫁達を。
それが僕がしたことだった。
殺して、殺して、殺しつくして、僕は立っていた。
〈アイツは私達でもあったのよ〉
姉様。
姉様。
愛しい姉様。
姉様が囁く。
〈私達は同じものだったの。
愛しい愛しい私の弟〉
〈でも今は、今は、今は、今は〉
姉様が消えていく。
「嫌だ、姉様!!」
僕は叫んだ。
〈殺し尽くしてあなたは全てを終わらせ、あなたは花嫁ではなく、英雄になったのよ〉
〈愛しい私の弟。
あなたは生きて。
生贄になる位なら、殺してでも生きるのよ〉
僕は絶叫した。
僕は【神】の首を切り落としていた。
首は床に転がった。
黄金の血を吹き上げながら、【神】の身体が倒れた。
裸同然の身体に、金色の血を全身に浴びて。
僕は英雄になった。
それは、罪を背負うことでもあった。
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