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第72話
「あの人はどうしているんです?」
彼が聞いた。
やはり、アイツが気になるか。
私はため息をつく。
切ないところだ。
「まだ入院中だ。リハビリがあるからな。片腕になったからあの子を上手く抱けないんじゃないかとそればかり気にしているよ」
正直に言ってしまって、彼が傷付くのではないかと慌てた。
彼は意外にも無邪気に笑った。
「心配いらないでしょ、あのドスケベなら」
私は安心する。
少なくとも、彼は何かを乗り越えた。
「 とあの子はどうしてるの?」
彼は女の子の名前をあげ、それとあの子について尋ねた。
女の子は何度か病院に、私と一緒に彼のお見舞いに連れていった。
彼のお嫁さんになりたいそうだ。
意外なところでライバルが生まれた。
「 と彼は私の家に預かっている。彼は家政夫してくれているよ。 は学校に通い始めた。彼ももうしばらくしたら夜間の高校からやり直すそうだよ。彼らはまともに学校に通っていないからね」
私が引き取った。
彼らの面倒を見るつもりだ。
彼らには責任を感じてる。
「あの人のところに行くかと思ってた」
彼はつぶやく。
「絶対にダメだ。特に幼い女の子の教育には最悪だろうアイツは。それに彼には私にも責任があるし。アイツが彼の意志を尊重するとはとても思えないのでね。それに、彼は世界について学ばないといけないし。彼らはあまりにも特殊に育てられているし」
アイツは二人を引き取りたいと言ったが、それを私は許さなかった。
今のアイツでは駄目だし、今のあの子では駄目だ。
いずれはそうなるとしても、歪んだ今のままでは絶対に駄目だ。
「どこかから外国人の国籍を準備してくれたがね」
戸籍もない彼らに、とりあえずアイツは身分を手に入れてくれた。
そういったところに何故顔がきくのかも色々問題なのだが。
せっかく、生贄ではない人生が始まるのだ。
私は彼にそうではない人生を送って欲しかった。
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