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不安3
夜遅く帰ってきた恋人に、あの男が来たと告げた時、恋人は顔色を変えた。
「殺す!」
部屋を飛び出して行こうとした。
慌てて全体重で、引き止めた。
それでも引きずられた。
「やめて!」
そう叫んだらやっと止まったけれど、今度は強く抱きしめられた。
息が出来ないので、背中を叩いてやっと緩めてもらえる。
「何もされてない?・・・アイツは乱暴だから」
震える指で髪を撫でられ、顔を露わにされ、傷などがないかさがされる。
「触られてない?」
その指が震えているのが、顔色が真っ青なのが、
死ぬ気で心配しているのだと分かった。
恋人は彼のシャツをまくり上げ、殴られた痣や吸われた痕などがないかをさがす。
そして、何もないことに安心したら、今度は自分の唇を落とし、吸い痕をつけていく。
思わず、彼は喘いだ。
久しぶりの唇が甘すぎた。
「嫌だ・・・君に誰かが触ったら嫌だ」
震える声に、思わず嬉しくなってしまった。
そして、この人が受けた傷なのだと思った。
そうされた過去がこの人を怯えさせる。
「何にもされてない?」
もう一度確認されて、頷く。
何もされてない、というよりは何かしたのだけど。
でも、殴ったことは言わなかった。
何もなかったこと、そして、男が伝えろと言った
ことだけ、喘がされながら伝えた。
もう、舌や指が身体を甘く溶かしはじめていた。
恋人のステージの出来次第では、音楽界から締め出すのをやめてもいい、ということを。
「はっ、余計なお世話だ」
恋人は吐き捨てるように言った。
「そんなことどうでもいい・・・君が、君が欲しい」
恋人は彼が弱い乳首を、甘く吸い始めていた。
彼は久しぶりの感触に耐えられない。
つま先が反り返る。
でも、久しぶりの唇が嬉しくて、彼の頭をおさえつけるように、恋人の髪を乱す。
「ここをこうしたかった・・・。君に触りたかった・・・」
囁かれる。
「ホント?」
彼は泣く。
ホロホロと涙がながれた。
恋人は驚く。
そんな風に泣く彼が泣く時は嬉しい時だけだと知っているから。
「欲しいのは・・・オレだけかと思ってた・・・」
彼の言葉に恋人の笑顔が大きくなる。
こんなにも感情を、さらけだしてくれた彼が嬉しい。
「したかったよ。・・・君の仕事もあるから、タイミング難しくて。今日はゴメン、明日仕事なのにゴメン」
もう、恋人は彼を貪るつもりだ。
ベッドまで連れていかれた。
服を脱がされる。
全身にキスされる。
確かめるように。
頭から、つま先まで。
背中も、脇も、指先も。
前のモノも、後ろの穴も。
優しくキスされた。
でも、欲しくてたまらない彼の身体には、その優しい刺激では足りない。
身悶え、欲しさに泣く。
恋人はでも、優しく身体を撫でる。
足りない。
足りない。
彼は、自分で弄ろうと穴と前に指をのばす。、
「ダメ・・・僕がいるのに、自分で、しないで」
恋人に手を掴まれる。
優しいキスをまた、首筋におとされる。
「意地悪しないで・・・」
彼は白い身体を震わせながら、懇願する。
「胸吸って・・・噛んで・・・、指入れてかき混ぜて・・・」
綺麗な目を濡らしながらせがまれる。
白い腕が抱いてくれ、と伸ばされて。
恋人は喉を鳴らす。
焦らすのも限界だ。
いやらしすぎた。
「・・・ホント、可愛い」
恋人の声が低い。
「・・・少し酷いこともしていい?」
恋人は尋ねる。
「・・・あなたの好きにして。どうにでもして」
彼は言う。
「・・・言ってるでしょ、そんなこと簡単に言ったらダメだよって」
恋人が堪えるように言う。
分かってない恋人に。
「ちゃんとわかってる・・・好きにして」
彼は恋人の目を見て言った。
「オレを欲しがって。あなたも」
彼の言葉に、もう恋人は止まらなかった。
男の言った、少し酷いこと。
両手を後ろ手に縛られた。
片脚の足首もベッドのへりにくくりつけられた。
傷つかぬように、優しく縛られはしたけれど、動けなくされた身体は少し怖かった。
「大丈夫?」
そう気遣われた。
頷く。
この人がしたいことを受け入れたくて。
それに、怖さは感覚を敏感にし、快感を増した。
乳首を血が出るまで噛まれた。
痛みに呻く。
その後は甘く溶かされる。
血をなめとられ、優しく唇で甘やかされる。
吸われ、唇で挟まれ、舌で転がされた。
そこだけでイった。
すがりつけない怖さも、腕を締め付けられる痛みも、繋がれた脚が引っ張っられる痛みも快感に変わる。
怖い。
怖い。
怖い。
でも良かった。
そのまま縛られていない片足だけを掴まれた。
肩に担がれ、尻を押しひろげられ、指で慣らされる。
そして、挿れられ、揺さぶられた。
不安感が、縛られた閉鎖感が、快楽を煽る。
助けを求めるように声をあげたかった。
壁が薄いからおさえつけられる口も、恐怖を煽り、快感を増した。
でも、良かった。
泣きながら、何度も何度も、壊れたように射精していた。
とまらなかった。
いつもと違う獣のような目のあの人が怖くて、愛しかった。
首筋を噛まれる。
血が滲むほど強く。
痛みが熱さが愛しかった。
「食い千切りたい・・・」
本気で囁かれて、戦慄し
「いいよ」
つぶやいた。
本気だった。
でも、すがりつきたかった。
抱きしめられて、顔をすりよせる。
「何でも、何でも受け入れないで・・・」
かすれた声で恋人が囁く。
「僕をそんなに許さないで・・・」
恋人は苦しげに呻く。
でも、強く強く抱きしめられた。
また噛まれる。
首筋から血が流れるほどに噛まれているのを感じながら、それでも彼は幸せだと思った。
そんな乱暴な行為を恋人が覚えたのは誰からなのかもわかっていた。
愛などなかったとしても、それでも、恋人とあの男の繋がりに胸が痛んだ。
それでも恋人の望みを受け入れたかった。
繋がれた手足は解かれ、そこからは、まるで宝物みたいに優しく抱かれた。
赤い縛られた痕に何度も口付けされた。
優しく、快感を引き出され、甘く鳴かされ続けた。
意識がなくなるまでずっと。
幸せだった。
幸せすぎた。
だから気付かなかった。
恋人がその日、服を一枚も脱ぐことがなかったことを。
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