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新しい日々2
友人は張り切っている。
会長も気合いが入っている。
いつになく大きな会場のイベント出場が決まったのだった。
中国で人気のスター選手をまさかのKOで打ち破った友人は、すぐに日本での試合が決まった。
ちょっと名の知れた大会で、全国放送とはいかないが、テレビでも一部では放送され、ネット中継はされている大会だった。
かなり大きな扱いで、格闘技雑誌のインタビューも来た。
降って湧いたチャンスにジムは大騒ぎだった。
もちろん彼も、出来る限り限り、友人の応援をした。
食事管理から、ミットも持ったし、スパーリングだって付き合った。
もちろん、実力差があるので、彼が相手出来るのは手だけの、ボクシングのスパーだけだが。
ボクシングは彼の方が上手いと、会長のお墨付きだ。
「リズムが一定なんだよ。それじゃ読まれる」
彼は友人に言う。
友人の攻撃はとんでもないパワーがあるが、リズムが一定だ。
次を予測しやすいのだ、と彼は友人に言う。
面白いくらい、撃ちにいった攻撃をよけられ、パンチを当てられているので、友人も素直にアドバイスを聞く。
「タンタンタン、タン。君のリズムね。オレはそれにあわせてパンチを撃つだけ」
彼は説明し、友人は納得する。
「少し途中でわざと止まったり遅らせたりすると、リズムが読めなくなるよ」
彼の言葉に友人は納得する。
「なるほど」
友人は考えながらサンドバックを撃ち始めた。
勝ってほしいと思う。
「オレはコレしかないからな」
友人は言う。
義務教育さえ、途中で放り出した。
育児放棄され、親戚中をたらい回しにされた子供の学力に気を止めるものなどいなかった。
彼からローマ字の書き方や読み方を教えてもらっているくらいだ。
でも、この分野では理解もいいし、頭もいい。
「ここで頑張りたいんだわ」
友人の言葉に彼は心の底から応援したいと思う。
オレ達は天涯孤独で。
戦うしかないから。
彼と友人は戦友なのだ。
「あのさ、一度言っておこうと思ってな」
彼のベッドの下に布団を並べている。
そこで横になりながら友人は言う。
試合前のまだ食事がとれる時期は食事の管理もあるから友人を家にとめたりしている。
職場も同じだし、色々都合がいいのだ。
もう眠ったと思っていた友人からの声に彼は眠気眼で聞く。
「何?」
友人はため息をつく。
「手出して」
友人は言う。
彼は言われるがまま、布団から手を出した。
その手を握られた。
ビクン
思わず彼の身体が反応してしまった。
友人が苦笑する。
「ゴメン・・・そんなんじゃないのに」
彼は小さい声で言う。
そういう意味はないのに、わかっているのに、反応してしまうなんて。
恥ずかしい。
自意識過剰だ。
同性を恋人にしていたことがあるから、たまにこういう反応をしてしまう。
「いや、オレはお前なら抱ける・・・と思うから間違いじゃない」
友人はとんでもないことを言い出した。
「どんなもんかと思って、手をつないでみたんだよ。今結構、こうしているとドキドキする」
声が笑っている。
彼は真っ赤になる。
何を何を言いたいのか。
「でも絶対お前とはしないから」
友人は断言した。
すごく優しい声だった。
「お前に必要なのは友達だ。セックスなんかしなくていい・・・そうだろ?」
友人が何が言いたいか分かってきた。
彼は手を握り返す。
この何年も微妙な関係だった。
特別な存在、互いに。
一つ間違えば、恋人にもなり得た。
考えたことがなかったとは言わない。
互いに恋人もいないままだ。
でも。
でも。
そうはなりたくなかった。
「オレ達、親も兄弟もいないわけだろ?で、随分ガキの頃から一緒だろ?・・・家族とか、何、そういうのみたいでオレはいたいの。お前と出来るだろうなって思う位には好きだけど、お前とはそんなんじゃない特別でいたいからしたくない位にはお前が好きなんだよ」
友人は言った。
手を強く握りしめられた。
「兄弟?」
彼は笑った。
「そう。オレが兄貴な」
友人は威張る。
「いいよ。・・・ありがとう」
彼は言った。
多分、友人は赤い顔をしているはずだ。
「お休み」
優しい声が聞こえた。
「お休み」
彼は言った。
手は離れたけれど、繋がれた温もりは残っていて。
彼は自分が幸せなのだと知った。
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