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再会2

 二階席の一番後ろの階段に座っていた。  そんなところ、誰も目を止めるはずがないのに。  リングサイドの、明るいライトが照らされる特別席から、その人はこちらを見ていた。  皆がリングの上を見ている時に、その人は彼を見ていた。  まさか、と思う。   こんな広い会場で、オレをみつけられるはずがないと。    でも、その人が自分を見ているのがわかった。  食い入るように。  視線が自分の中に入ってくる。    やめて  彼は身体が震えるのがわかった。  視線一つで、身体が反応していた。    男が立ち上がった。  そしてこちらを見たまま、会場の外へとゆっくり出て行った。    やはり気のせいだったのだ。  消えた男にホッとしながら、彼は震える身体を抱きしめる。  震えているのに、身体の芯に熱がある。  いけない、と思う。  この感覚は覚えがある。    欲情だ。  唇を噛み締める。   あの男が自分を見たと思っただけでこれか。  情けなかった。    変わったのに。  変わったはずなのに。  二階席に上がってきた者に気づく。    暗がりでも、そのシルエットだけて彼にはわかる。  あの人だ。  彼を探しにここまで来たのだ。  彼は逃げようと思う。  でも身体が動かない。  階段を上がり、一番後ろの壁にもたれるように座っている彼の元に近寄ってくる男。  暗くて顔は見えないはずなのに、その男が自分を食い入るように見ていることは分かった。  近づいてくる。  背の高いシルエット。  自分を何度も抱き込んだ、長い腕。  広い胸の感触が思い出された。  その目をかんじる。  その視線を感じる。  犯される。  その視線は彼の身体の中まで支配するように入ってきていた。  彼は小さく喘いでいた。  身体が熱い。  そして男は彼の目の前に立っていた。  彼は怯えた、そして欲情した目で男を見上げた。  男の目は怖くて・・・そして、男も欲情していることが分かった。  誰もが始まる試合に熱狂している中、男と彼だけは別のものをみていた。  彼は男と目を合わせていた。  視線だけで犯される。  服を剥ぎ取られ、愛撫される。  中をこすられる。  呻いてしまうかと思った。  熱さと激しさに満ちた視線が緩んだ。    男が笑ったのだ。    それだけで胸が疼いた。  あの最中に、そんな風に笑われた時もそうだったみたいに。  男はそっと彼の横に座った。  会場は盛り上がる試合に大騒ぎしている。  でも、彼と男の間だけは何の音もしないようだった。  彼は震えていた。  みっともない位に膝を抱えガタガタと。  嫌だと思った。  もっと何でもないように、なんとも思ってないみたいにこの人の前ではいたかったのに。  視線を男から離せない。  隣りに座る男を見上げた。  身体は触れ合うばかりに近く、その体温を感じれるようだった。  綺麗に見開かれたアーモンド形の目から、男も目が離せない。  男の腕も震えていた。  男が彼の肩を抱いた。  昔そうしていたように。    ビクン  彼の身体が震える。    首筋を指が撫でた。  その感触にまた身体が震える。  優しい指が首筋を丹念に確かめるようになでる。  その指が動く度に、身体が反応してしまった。  声を出すことだけはこらえる。    「噛みたい・・・」  囁かれた。  熱っぽい視線はもう彼を抱いている。  声だけで身体が震えた。  もう、駄目だと思った。  手を引かれた。  連れて行かれる。  気がつけば駐車場にある車に乗せられていた。  車に乗せられ、抱き寄せられ、唇を奪われた。  柔らかい、記憶に残り、いまでも妄想の中で彼を抱く男の唇に彼は夢中になった。  自ら唇を開き、その舌を吸い絡めた。  「・・・ここじゃ駄目だな。ホテルに行こう」  男が耐えるように呻いた。  彼は拒否しなかった。  早く身体に触れて欲しいとしか思っていなかった。  男は愛しげに彼を見つめた。    彼は不思議に思う。  今の自分はもう、男が気に入っていたような姿ではないのに・・・。  でも、男が自分を欲しがっていることだけは分かった。  だから何も言わず、何も考えず、助手席で目を閉じた。  熱くなる身体を持て余しながら。  部屋に入るなり押し倒された。   服さえ脱がずに抱き合った。  口の中を舌で犯されながら、その手がTシャツの下の胸を撫でる。  気持ち良かった。  「・・・誰かいるの?」  キスの合間に囁かれた。  掠れる声で。  最後のブレーキなのだと分かった。  誰かいると、恋人がいると言えばこの人は止めてくれるのだと分かった。   止めて欲しくなかった。  「いない・・・あなたは?」  思わず聞いてしまった。  男は切ない目を向けた。  顔を挟みこみ、彼の目を覗き込みながら言う。    「僕はいつだって君だけだ」     彼の胸が冷える。  その言葉の軽さに。  こういう人だ。  そう思った。  あの男に抱かれながら、あの女を抱きながら、そういうことを平気で言える人だった。    ずるい、今でも彼はまだ、この男しか知らないのに。  でも、シャツをまくり上げられ、乳首を吸われたらまた身体が熱くなった。  ここを弄って欲しかったのだと痛感した。   ずっとずっと。    「吸って・・・噛んで・・・」  彼は妄想の中でもそうしていたように、男にせがむ。  甘く噛まれて、声を上げる。  気持ち良かった。  「気持ち・・・いい。もっとして・・・もっと」  彼は叫んだ。  男はいやらしく音を立てて吸い、舌でそこを転がした。  そうされるのが大好きだった。  忘れられなかった。  もうとっくに張り詰めているそこを扱こうと自分でジャージの下と下着を下ろす。  男に胸を弄られながら、自分で扱いていく。   「あっ・・・気持ちいい・・・もっと吸って・・・」  強請りながら、自分の指も止められない。  吸われる妄想の中で扱くのが当たり前になっていたから、男の前でもそうしてしまう。  受け身のセックスしかしてなかった、男としていた頃とは違う。  自分の身体を何年も一人いじり続けてきたのだ。  「・・・随分、いやらしくなったんだね」  男の声が怖い。  「そんなこと、教えられたの?誰かに?」  強く乳首を、噛まれて、限界だったそこが弾けた。  叫ぶ。  自慰とは比べようもないくらい気持ち良かった。  まだ始まったばかりなのにどうなるのかと思った。  でも欲しかった。  もっと欲しかった。  男のモノに手を伸ばした。  ベルトを外し、チャックをおろしてひきずりだした。  大きな、ソレ。  これが奥に入るのだと思うだけで頭がおかしくなりそうだった。   

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