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再会4
昔のように意識を無くした彼を、風呂にいれてやり、シーツを剥がしたベッドに寝かせた。
しなやかな筋肉がついた身体は昔とは違うけれど、とても綺麗だ。
今の彼も魅力的だ。
いや、彼だからいいのだ。
今では顔を隠そうともしてない。
顔にある疵痕をなぞる。
縫った跡だ。
彼はどうやってあれから過ごしてきたのかが、身体や顔からわかる。
ジムの名前の入ったジャージ、Tシャツ。
畳んでベッドサイドに置いてある。
試合でのセコンド姿も板についていた。
あの男の影響か。
腫れ上がった顔で彼を抱きしめていた、あの試合の勝者。
彼は全身で喜び抱きついていた。
男より前に彼と出会い、男が去った後も彼のそばにいただろう男。
彼の友人。
嫉妬で身体が焼き尽くされそうだ。
でも、彼と再び会えたのは胡散臭い、格闘技イベントのプロデューサーが持ってきたポスターに、友人の写真がのっていたからだった。
いつもなら断る仕事を引き受けた。
もしかしたら、彼が会場に来るのではと思って。
とにかく。彼は今は格闘技の世界に身を置いているのはわかった。
あの優しい彼が。
「ごめんなさい」
男は謝る。
自分のせいだとは分かっていた。
彼を深く傷付けた。
だから離れた。
それが一番の自分への罰だと思ったから。
一目会いたくても我慢した。
今日だって、ちらりと見れたらいいと思っていた。
でも、一目見たら、もう、止まれなかった。
「良くも五年も・・・」
男は彼の顔を撫でながら呟く。
「五年だぞ・・・」
足りない。
足りない。
抱きたりない。
彼が足りない。
男は顔を覆う。
彼を愛することを止められないと思い知らされたから。
「愛している」
男は囁いた。
苦痛を感じながら。
これから先、どれほどの苦痛があるのかを思いながら。
会うべきではなかった。
抱くべきではなかった。
でも、もう会ってしまった。
抱いてしまった。
手離すことなどもう出来なかった。
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