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リフレイン

 目覚めたら、キスされた。  男の腕の中にいた。  茫然とする。  夢じゃなかったのだ。  何も着ていない身体。  長く忘れていた重だるさと、まだ中に入っているような感覚。  やはり夢ではない。  「まだ夜中だよ」  眠そうに男は彼を抱き寄せる。     彼は身体を強ばらせる。  コレは間違っている。  オレは間違ってしまった。  この人とこうなるべきではなかった。  身体を押して、男から離れた。    服を探し、ベッドサイドに丁寧に畳んであるジャージやTシャツを着る。  間違ったのは仕方ない。    でも間違えたままなのは良くない。  彼は決意する。  もう、あわない。  これきりだ。    「帰る」  男に言った。  男はため息をつく。  こう言われることは、予想はしていた。  「財布も何も持ってないでしょ。こんな真夜中にどうやって帰るの」  言われて気付く。  会場に携帯すら置いてきたことに。  いけない。  友人が心配しているだろう。  「歩いて帰る」   彼は言う。  「何キロあるとおもってるの?・・・朝まで待って。送るから」  男は起き上がる。  裸のままだ。  ほんの数時間前抱かれていたのに、いや、抱かれていたからこそ彼は真っ赤になる。  男はそれを見てクスリと笑う。  「一緒にいて。せめて朝まで」  背後から抱き締められた。    朝まで。    限定されたら弱かった。  朝までなら。  自分を許してしまう。    夢にしてしまえばいい。    力が抜けた。  彼はまたベッドに連れ込まれてしまった。  「朝までは僕だけの君」  男は囁く。  また胸をその手が這う。  「寝ちゃったからやめたけど、起きてるならいいよね」  耳たぶを吸われた。  小さく呻いてしまう。  「せっかく服を着たのにね」  スルスルと脱がされてしまう。  「朝までだから」  彼は喘ぎながら言う。。  男の指は彼の散々弄られ赤く腫れた乳首をまた弄っていた。  「うん」  男は頷き首筋をなめた。  (今日のところはね)   心の中で呟きながら。  「噛みたい」  彼にせがむ。  印をつけたい。  コレは男のモノなのだ。  もう、手放さない。  「ダメ」  彼は許してくれない。  「朝までは僕のでしょ」  前をしごきながら囁く。  先ばかり弄る。  彼はここが弱い。  「朝までは・・・僕のだ。僕のでしょ」  囁き続けた。  限定してしまえば、彼は弱い。  彼は弱い先をいじられ続けて、声をあげた。   大好きな乳首も噛んでやった。    さんざん出したはずなのに、また白濁をその手に吐き出すまで弄る。  それでも、しつこく弄る。    イったばかりの身体には快楽が苦しいらしく、彼は悶える。    でも容赦しない。   「・・・手首なら・・・サポーターで隠せるから」  とうとう折れた。   どこでも良かった。  まずは印からだ。    彼に自分を刻みつけなければ。  差し出された手首を血が出るまで噛んだ。  満足感を覚えた。  血をなめあげる。  彼は噛まれて声を上げた。  痛みではなく、快楽の声を。  それが可愛かった。   君は僕のモノ。  君の身体もそれを知っている。    今度は優しく甘やかすように抱いた。  朝までの時間はあまりにも短かった。  家まで送る彼はよそよそしかった。  あれほど乱れて、時間ギリギリまですがりついていたのに。  男は寂しい。  でも仕方ないと思っている。  音楽をかけようとしたら、彼に止められた。  「音楽は聞かないんだ」  彼はそうとだけ言った。  音楽を聞かない?  彼が?    男は驚いたが、彼の無表情な顔を見て黙る。  今は聞くべきではないのだ。  でも、いつなら聞ける?  どうすればいい?  男が信号待ちの時に彼に伸ばした指は払いのけられた。  青ざめた後悔している彼の顔。  彼は悔やんでいる。  男は思い知らされる。    「着いたよ」  男はいつも彼を送っていた場所に車を止めた。   シートベルトを外してあげようとしたが、拒否された。  それでも、車の外に出た彼の腕を掴む。  「離して」  彼は言う。  男は黙って、手首に残る印に唇を押し当てた。  彼の身体が震える。    ほら、僕のモノだ。  男は思う。  そこを舐めた。    「止めろ!朝までだと言った!」  彼は短く叫んで、手を振り払った。    「僕は諦めない。もう離れたくない」  男は彼から目をそらさない。  決めていた。  絶対に諦めたりするものか。    「・・・やめて。オレはもう、歌えないんだ。これ以上オレから何かを奪わないで」  彼の言葉に男はショックを受けた。  彼が歌わない?  「もう歌ってないのか?」  男は信じられないように言った。  「歌も音楽ももう要らないんだ、オレに構わないで!」  彼は叫んで走り出した。  その走っていく先に、あの男がいることを男は確認した。  おそらく会場から姿を消した彼を、心配して探していただろう友人。  部屋の前で、いや、部屋の中で自分の家であるかのように彼を待っていたのかもしれない。  彼はその男にしがみつく。  男は彼を抱きしめた。  そして、気付いたように男を見つめた。  凄まじい怒りがその目にあったが、彼が何かを囁いて、静かに頷いた。    でも、睨み続けている。  彼を抱きしめている。  許せなかった。  男のモノなのに。  でも。  でも。  彼が歌わない。  そのことがあまりにもショックで、男はフラフラと車に乗り込み、そこを立ち去った。   友人は彼を抱き締めた。  震えていた。  「オレがついて行ったんだ。オレが自分で」  苦しげに彼は言う。  「そうか」  友人はただ抱き締める。  あの男が呆然とした様子で車に乗り込み去って行くのを睨みつける。  もう、十分傷ついたのに。  また傷つくのか。  「もう、会わない・・・」  彼は泣きながら言う。  まだ泣くほど好きなのか。  可哀想に。  友人は切なくなる。  あんな男と付き合えば、傷付くだけだ。  あの男はダメだ。  根本的に歪んでいる。   幸せになれないタイプの男だ。  彼を本当に愛してはいるのだろう。  それは分っている。    でも、何を守らなければならないかとかが、全く分かっていない。  他の人間と付き合いながら彼を愛したり、自分の作るもののために平然と彼を傷つけたりする。  正しい愛し方など知らないのだ。  酷く損なってしまってから、間違いに気付く、そんな男だ。    そんな男に本気で惚れるから・・・。  こんなに傷付いてしまった。  ただの悪い男なら、ここまで苦しまなかっただろうに。  しゃくりあげる彼をただ抱き締める。  「そうか」  余計なことは何も言わない。  部屋に連れて行ってベッドに寝かせた。  寝付くまで、隣りにいた。    ・・・あの男をどうしよう。  友人は考えていた。    

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