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変調3
しばらく様子を見るとしか病院では言われず帰ってきた。
それでも次の変調はすぐにやって来た。
次の日だった。
普通に仕事に行って、風呂にはいって。
男が作ってくれた夕食を食べていた。
相変わらず味覚はない。
昨日、家に帰ってからも男に乞われて抱きしめられてしまった。
一時間位そうされていたら、背中を撫でる手が心地良くて、思わずそのまま寝入ってしまって・・・。
朝起きたらベッドで男の腕の中で寝ていた。
男は当たり前のように、彼の髪を撫でていた。
すごく嬉しそうに笑っていたから、思わず、ふわりと笑いかけてしまった。
寝ぼけて、まだ男が恋人だった頃に戻ってしまったのだ。
そして、次の瞬間、正気にかえり、男を突き飛ばして起きたのだ。
パジャマに着替えさせられていたけれど、身体に何かされた痕跡はなかったので安心した。
これはよくないと思う。
本当に良くない。
元々流されまくって恋人にされた前科がある。
抱かれて、わけが分からない内に強引に恋人にされてたわけで。
同じ過ちをくりかえすのは本当に良くない。
この人のペースに巻き込まれては絶対にいけない。
彼は決意を新たにする。
「ソースとって」
食卓で男に言われ、近くにあったテーブルの調味料入れからソースを渡そうとした。
彼は戸惑う。
ソースは赤いキャップ。
醤油は青いキャップ。
同じ入れ物でも色違いに入れて小分けにしていたのだけど・・・。
赤と青が分からないのた。
彼は困る。
どうなっているのかわからなくて困る。
「・・・どうしたの」
男は異変に気付く。
「色が解らない・・・」
彼は小さな声で言った。
男の顔色が変わった。
仕事も休まされ、次の日男に違う病院につれて行かれた。
新幹線に乗ってまで。
新幹線の中でずっと手を握られていた。
振り払えなかった。
男の手が震えていたから。
オレより怖がっている。
彼は思った。
男はあちこちに電話をかけて、その有名だという脳神経外科先生の受診までとりつけてしまっていた。
また検査された。
今度は診察室まで男は着いてきた。
先生とは知り合いらしく、何か冗談まで言い合っていた。
彼は正直に喋るよう促され、性欲が止まらなかったことまで言わされてしまった。
先生はチラリと男を見た。
この先生はオレとこの人がパートナーだと思ってるんだろうな、と彼は困ったように思った。
「・・・脳的には異常はない」
先生は断言した。
彼も男も脱力した。
「・・・精神科の範囲だな、紹介しようか?」
先生は言った。
彼は首を振る。
彼は精神科医が嫌いだ。
「だからとりあえずは安心しなさい。」
先生は彼ではなく、男に言った。
男が泣いていたからだ。
男は心配のピークから解放されたようだった。
ポロポロ涙を流す。
「すぐ泣く・・・」
彼は困ったようにハンカチを男に渡した。
「君が泣くとはね」
先生が驚いたように言った。
彼は首を傾げる。
男は良く泣く。
簡単に泣く。
先生の男への印象は随分違うようだった。
「どうしようもないね」
彼は呟く。
「でも身体に異常がないことはわかっただけでも安心したよ」
男は微笑む。
新幹線の中でまた手を握られている
男は診察室を出た後も、ずっと泣き続けた。
「君に何かあったらどうしようかと思った・・・」
端正な顔の男が涙を流し続けるのは、ものすごい絵になる光景だったけれど、彼は困ってしまった。
人に注目されすぎるのだ。
ジロジロ見られてしまう。
「お願いだから泣きやんで」
彼は頼んでしまった。
「・・・手、握ってもいい」
心細い調子で言われたら断れず。
結局握られたままで、離してもらえない。
おまけに新幹線に乗ってからは、彼の肩に甘えるように頭を載せてくる。
「ちょっと!」
新幹線の中なので、強くは言えない。
「ん?」
肩に頭を乗せたまま、にこやかに笑いかけられる。
なんでもないことのように。
厚かましさに絶句する。
男は握った手を愛撫するように撫ではじめた。
いや、明らかに性的な意図を持って撫でている。
指の一本一本を丹念に、いやらしく撫であげられる。
指を舐められた夜を思い出して、一瞬身体が震えた。
こんなところまで開発されているのが悔しかった。
「・・・止めて」
声を潜ませて言えばやめてはくれる。
いけない。
いけない。
このままではいけない。
彼の中で警報アラームが鳴る。
この人はいつもこうやって自分のペースにどんどん巻き込んでくる。
ダメだ。
流される。
どんどん流されてやりたい放題される。
気が付いたらまたヤられてるハメになる。
なんとかしなければ。
彼は真剣に対策を考えはじめていた。
それを身体の心配をしていると男はとったようだった。
「・・・大丈夫だから、絶対になんとかするから」
男が言った。
真剣だった。
「僕が絶対になんとかするから」
その言葉には何の根拠もないことがわかっているのに、なぜが彼は安心してしまったのだった。
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