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歌2

 「愛してる・・・誰よりも」  彼は言った。  「でも、憎んでる・・・誰よりも」  彼は言った。    彼は自分を傷つけた人の前で泣いた。  男はそれでも歌を取り戻してくれたから。  それが自分が憎まれることになると、男は知っていたのだろう。  でも、男はそれでも、彼に歌を返したのだ。    「・・・君に憎まれるのは辛い。本当に辛い」  男はすすり泣いた。  それでも、彼に歌を返さなければならなかった。  それしか、してやれることがもうなかったから。  男が奪ったものを、男は今やっと返したのだ。    「・・・これだけは本当。信じて。愛してる。誰よりも」  男は泣きながら言った。  もう完全に失った彼に。  「・・・知ってる」  彼はほんの少し微笑んだ。    男も泣きながら笑った。  裏切った。  苦しめた。  全てを奪った。  でも、でも、これだけは本当だった。  それだけは信じて欲しくて・・・。  そして、それだけは彼は受け入れてくれたのだった。  「・・・さよなら」  男は言った。  「さよなら」  彼は言った。  全てのやらなければならないことを男は終えた。  男の贖罪は終わった。  男は彼をそこに残したまま、立ち去った。    そして、もう戻らなかった。

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