60 / 75
歌2
「愛してる・・・誰よりも」
彼は言った。
「でも、憎んでる・・・誰よりも」
彼は言った。
彼は自分を傷つけた人の前で泣いた。
男はそれでも歌を取り戻してくれたから。
それが自分が憎まれることになると、男は知っていたのだろう。
でも、男はそれでも、彼に歌を返したのだ。
「・・・君に憎まれるのは辛い。本当に辛い」
男はすすり泣いた。
それでも、彼に歌を返さなければならなかった。
それしか、してやれることがもうなかったから。
男が奪ったものを、男は今やっと返したのだ。
「・・・これだけは本当。信じて。愛してる。誰よりも」
男は泣きながら言った。
もう完全に失った彼に。
「・・・知ってる」
彼はほんの少し微笑んだ。
男も泣きながら笑った。
裏切った。
苦しめた。
全てを奪った。
でも、でも、これだけは本当だった。
それだけは信じて欲しくて・・・。
そして、それだけは彼は受け入れてくれたのだった。
「・・・さよなら」
男は言った。
「さよなら」
彼は言った。
全てのやらなければならないことを男は終えた。
男の贖罪は終わった。
男は彼をそこに残したまま、立ち去った。
そして、もう戻らなかった。
ともだちにシェアしよう!