63 / 75
奪還1
男には会えなかった。
会う方法がわからなかった。
どこに住んでいたかも知らなかったし、携帯の番号は解約されていた。
新幹線で男に連れて行かれた病院にも行ったが、個人情報を教えなど貰えるわけなどなかった。
経過を診てもらう名目で、あの医師の診断を受けることにも成功したが、やはり何も教えてもらえなかった。
「・・・彼ね、自分の時には涙一つ見せなくてね、強い男だと思ったんだけどね。君の時には大泣きしてね・・・」
それだけは教えてくれた。
「・・・とても大事なんだって言ってたよ」
そう付け加えてくれた。
ついでに、味覚異常や色覚異常をどう直したかの方法は面白かったらしい。
「根拠もないのに良くやるよ」
感心しているようだった。
「伝えてもらえますか、もしあの人が来たら。オレはあきらめないって」
彼の言葉に医師は頷いた。
手詰まりだった。
もともと住む世界が違う。
つい、和やかに暮らしていたから忘れていたが、男は顔こそ広く知られてはいないが、有名人だ。
そんなに誰でも簡単に、会えるわけではないのだ。
彼は悩んだ。
どうやってでもあの男に会う。
どんな手を使ってでも・・・。
一つ、方法があることに彼は気付いた。
いや、でも。
躊躇した。
だけど次の瞬間怒りがその躊躇を吹き飛ばした。
あっちはいつでも好きにやって来るし、去って行くのにこっちはこんな思いさせられるなんて、許せない。
会ってもう一度その顔面を殴りつける。
そのためには方法は選ばない。
ともだちにシェアしよう!