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奪還1

 男には会えなかった。  会う方法がわからなかった。  どこに住んでいたかも知らなかったし、携帯の番号は解約されていた。  新幹線で男に連れて行かれた病院にも行ったが、個人情報を教えなど貰えるわけなどなかった。  経過を診てもらう名目で、あの医師の診断を受けることにも成功したが、やはり何も教えてもらえなかった。  「・・・彼ね、自分の時には涙一つ見せなくてね、強い男だと思ったんだけどね。君の時には大泣きしてね・・・」  それだけは教えてくれた。  「・・・とても大事なんだって言ってたよ」  そう付け加えてくれた。  ついでに、味覚異常や色覚異常をどう直したかの方法は面白かったらしい。  「根拠もないのに良くやるよ」  感心しているようだった。  「伝えてもらえますか、もしあの人が来たら。オレはあきらめないって」      彼の言葉に医師は頷いた。    手詰まりだった。  もともと住む世界が違う。  つい、和やかに暮らしていたから忘れていたが、男は顔こそ広く知られてはいないが、有名人だ。  そんなに誰でも簡単に、会えるわけではないのだ。    彼は悩んだ。  どうやってでもあの男に会う。  どんな手を使ってでも・・・。  一つ、方法があることに彼は気付いた。  いや、でも。     躊躇した。     だけど次の瞬間怒りがその躊躇を吹き飛ばした。     あっちはいつでも好きにやって来るし、去って行くのにこっちはこんな思いさせられるなんて、許せない。  会ってもう一度その顔面を殴りつける。  そのためには方法は選ばない。  

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