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奪還6

 「僕は君だけの僕だ」  指で彼の穴を広げながら男は囁いた。  そこは、毎晩自分でしていたのだろう、すぐに緩んでいく。  いやらしい、彼。  僕のことを考えないとオナニーさえ出来ない彼。  僕でしか出来ない君。    ベッドサイドの引き出しから、ローションを取りだし、たっぷりとかけてやる。  前をしごきながら後ろを解せば、彼の白い身体が跳ねるように動いた。  零れる声さえ愛しい。  「・・・君に犯されるのなら僕は構わないけどね。でもね、それ以上に君に入りたい」     男は囁いた。  「もうオレだけにしか入らない?」  彼が泣きながら聞く。  「うん。死ぬまで、君だけ」  それは本当の言葉で、だからこそ、悲しくて、でも、彼は安心したのだ。  男は死ぬ。  もう、裏切らない。  だからこそ、彼は男を奪還したのだ。  酷い話だとは思う。  先など信じられなかった。  また繰り返されるかもしれないことの恐ろしさは、過去にあったことよりも怖かった。  でも、先がないなら、信じられた。  男には今しかない。  だからこそ、全力で男を愛することに躊躇いかなかった。  「オレだけだ」  彼は笑った。  それが信じられることは、悲しいことだった。  それが信じられることは、男の未来がないからだった。  でも、でも、もう一度信じられることは、何の疑いもなく愛せることは・・・奇跡のように幸せだった。  「君だけだ。君だけだ。君だけだ」  男は彼の中に入ってくる。  「オレのだ。全部、オレのだ!」  彼は叫びながら受け入れる。  「奥まで犯してあげる。・・・僕がいなくなっても絶対に他の男なんかじゃ満足出来ないようにしてあげる」  男は耳元でささやいた。  動く。  いいところを擦りたてたら、彼が乱れる。  「あっ、・・・気持ち、いい、あっ・・はっ」  動きを大きくスライドさせたら、彼は後ろだけで射精した。  「ああっ!!」  彼の叫び、強く締め付けられ、男も中に放ってしまった。  でもまだ抜かない。  蠢くそこで、また、固く育てていく。  「あっ・・気持ち、いい。気持ち、いい」  こうなると彼は素直だ。  さらに深く犯す。  ひさびさの奥をこじ開けていく。    「あっ・・・」  もう、彼は声も無くなる。    だらしなく口はあけられ、涎をたれながし、目が虚ろになる。  身体がゆるみきっていた。  ただただ、身体が痙攣を繰り返す。  男も知っている。  連続で、イキ続けているのだ。  男もうねる彼の中と、吸いつくような奥での快楽にこらえきれなくなる。  気持ちいい。  愛しい。  悔しい。  彼は男をすべて手に入れた。  でも、男は彼の未来に手は届かないのだ。  未来がないから、彼を再び手にできた。  でも。彼の未来には手が届かず、彼の未来に嫉妬するのは男だった。    「殺しちゃおうか・・・」     男は思わず呟いた。  手放したくなどなかった。  「・・・一緒に・・死んでも・・いいよ」  彼は身体をひくつかせながら言った。  震える指に、頬をなでられ、男は正気に戻った。  「殺して満足出来る程度の愛で愛してられたら、良かったなぁ・・・」  男は言った。  もう、無理だ。  もう、今更無理だ。  愛しすぎてしまった。  「でも、セックスでは殺してあげる」   男は奥をさらに犯した。  「   !」  男の名前を立て続けに叫び、彼は意識をとばしてしまった。  男はそこで放った。  「名前呼ぶなんて・・・反則」  男は彼を抱き締めた。  「今日は許してあげない・・・」  男の声で、意識が引き戻される。  うつ伏せにされていた。  男が彼の太股を跨ぐようにして、背後から身体を繋いでいた。  そこを擦りたてられて、思わず声が出る。  意識を無くしてからも、犯され続けていたらしい。  後ろからされるのが苦手な彼は、縋るものを探してシーツを掴む。  「後ろやだ、顔見たい・・・顔・・・」  泣く。  「勝手に意識飛ばしたのはそっちでしょ。意識ないなら、後ろからしてもいいでしょ、これが一番深く入るし、動けるんだよね」  男は言ってそれを証明してみせた。  浅く深く何度も何度も動かされた。   「あっ・・ダメ・・出る・・・」  彼はまた射精した。   「そんな締め付けて・・・ほら、出ちゃった」  男が溜め息をつく。  彼は怯えたように身体をひくつかせる。  「後ろ・・・イヤ・・・」  彼は泣く。  気持ちいいのにすがりつけないのは怖かった。  「・・・そうだね、もう、気絶してる間にしかしない」  男は怖いことを言った。  抜いてくれると思ったのに、そのまま身体をひっくり返された。  「これで顔見えるからいいよね」    男はにっこりと笑った。  「もう・・無理」  彼は言った。  「・・・無理じゃない」  男は笑う。  またゆっくり動きはじめる。  本人が無理だと言っているのに・・・。  彼は何か言おうとしたが、そんな言葉さえ言わしてもらえなかった。  何度もイカされ、出なくなっても後ろだけでイカされ、気絶しても抱き続けられた。     ・・・本当に殺されるかと思った。

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