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ひとりと独り

「あんた誰」 「え」 スポーツドリンクを飲んでいたら、榊原が見下ろしてきた。 まるで下に見られているように錯覚する。 名前を聞くならまず自分からって教わらなかったのか?! 「俺は〜、多岐だよ。多岐蓮太。つーか名前聞くときは初めに名乗るのが基本ー」 「たき、れんた?」 「……聞いてないし」 「瀧 廉太郎か」 「春の〜うらぁら〜の〜って違うわ!」 「ナイスノリツッコミ!」 信濃の褒めに多岐は苦笑いし、弁当を食べている京極を見やった。 弁当食べてるところも良っ! かっこいいなぁ。 「? 食べるか?」 「ッ! い、いやいいよ! お腹減ってないし!」 「千里くん優しっ」 「なんか食べたそうだったから」 そうです。 僕は京極さんを食べ……なんて。 冗談きついぜ俺。 「多岐りんも演劇やればいいのにぃ」 「無理! 俺、演技しようとすると絶対笑っちゃうから。てかバスケで十分だから!」 「へえ、多岐はバスケサークル?」 「うん。しなのんは写真同好会だよな〜」 あえて回すことで京極の意識を信濃に向けさせる。 これも生きる術だ。 「そ、多岐りんってばポートレートのモデルやらないかって誘われてるの! ウケるよね〜」 「ウケないし!」 しなのん! 俺の計画が無駄なんですけど! 脳内でツッコミを入れて京極をチラっと見れば、案の定目が合って頬に熱を感じた。 「い、いやべつに? 俺ってモテるし〜、モデルなんかしなくてもねえとか思ったりして」 「自分でモテると思ってるやつは大抵地雷だろ」 「……は」 冷たく言って去っていったのは榊原だ。 数秒フリーズした。 …………はぁぁあぁ!? なんなんだよ、あいつ。 初対面でいきなりディスるとか、さすがの俺でも激おこなんですけど。 「多岐りん、顔に出てるからっ」 「え? あー! ごめんっち! 榊原って変なやつだなー」 「すまない、あいつは誰に対してもそうなんだ」 「大丈夫大丈夫! 京極さん悪くないし!」 「……京極とか千里でいいから」 「うぇっ! マジで……?」 うなずかれて意識を失いかける。 男前な容姿の上にこの懐の広さ、多岐は胸が膨らむ感動を覚えていた。 多岐には見た目と不釣り合いな趣味がある。 趣味というよりは習慣で、大学やバイトを終えると都内の小さな神社へ足を運ぶ。 拝礼をおこなう日は特に決めていないが、なにか頼みごとなどがあれば賽銭箱に小銭を投げていた。 「おってて洗い〜」 呟いて手水舎(てみずや)で清めると、階段を上がってくる人の気配がした。 ここは都内であまり名の知れていない多岐のお気に入りだったが、1年ほど通って初めての人だ。 「あ」 「は?」 あれ? 鳥居を潜ろうとした男が足を止めた。 多岐を見るなり眉間にしわを寄せ、みるみる不快感を露わにしていく。 「そ、そこ入ったら神様の領域だから!」 「…………お、おう。なにしてんの、あー」 「多岐ですゥ」 それはこっちのセリフだ、と榊原を睨む。 まさかこんな場所で再会するとは思ってもいない。 何度も現実を確かめたが悲しいかな榊原で間違いないようだ。 あーあ、苦手なんだよなー……こういうタイプ。

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