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2人だけの

「ソースついてんぞ。びっくりすんなよ」 「あ、ご、ごめん」 過剰な反応に恥ずかしくなる。 変だと思われてないか。引かれていないか。 紅潮していく顔を腕で隠してそっと榊原を見やる。 するとしっかり目線が絡み合って強引に水を口に入れた。 「ゔ……げほっげほ、気管にッ……」 「アホだろ、お前」 「……プッ、はははっ、あははは!」 「マジで壊れてんな……」 「ひゃーっ、ダメだ……おもしろすぎてっ、あっはははぁ!」 不自然にツボに入ってしまい、腹を抱えて笑い出す。 向かい席にいる榊原は呆然としておかしな多岐を凝視した。 笑い上戸か、こいつ。 「幸せもんかよ」 「ふふふっ……はぁー、久々にこんな笑った。今さっきのってさ、"目と目が合う〜"だよね。超面白い」 「全然分からねえよ、頭大丈夫か? 芝居中も思ったけど、お前やっぱ役者向いてねえな」 「え、なんで!」 「顔に全部出てんだよ。役者ってのはポーカーフェイスが必須だ」 「やだー。もっと笑ってよ、サッキーも」 「無理」 「サッキーの笑顔が見たいぃ」 「うるせ。分かったから早く食えっての」 ふしぎな気持ちだ。 榊原といると凄く楽しい。 いかつい表情をしているうえに口も悪い。 だが、人並み以上の優しさを感じる。 「見てこれ、猫の顔したチキンナゲットっ」 「なんだよそれ。お子さまセットじゃねえか」 「ぷふふっ、猫だぁ〜。食べられないぃ」 「俺が食ってやるよ」 「いやだよ! この子はあとで」 「……」 皿の端にナゲットを寄せてハンバーグをナイフで切る。 その手は微かに震えがあり、榊原はそれを見逃さなかった。 「まだ効いてないのか、薬」 「えっ! ……うーん、そうみたい」 「貸してみ」 ぎこちなさに黙っていられずナイフを取った榊原が丁寧にハンバーグを切っていく。 それを眺めながら少しの高揚感を覚えた。 「ねえサッキー」 「なに」 「これ食べ終わったら海行きたい」 「……はぁ、へいへい」 「へへ、ありがと」 ドキドキと呼応する心臓。 優しい潮風の香り。 苦しかった胸の痛みも徐々に消えていき、食事を終えた頃にはすっかり回復していた。 「わぁぁぁっ、海だァ!」 「あっつ……夕方なのに日差し強すぎだろ」 視界いっぱいに広がる水面はところどころで宝石のような光を放っていた。 多岐の眼に映るのは鮮明な画で、高まる胸の鼓動に頬を紅潮させる。 歩みを進めるたびに砂浜にくっきり足跡ができるしサクサクと音が鳴る。 それも多岐には面白く感じた。 「やばい楽しい」 「大げさだな」 「サッキー見て! 波が押し寄せてくるっ」 「あ、おいコラ! 自ら迫るんじゃねえよ!」 「あはははっ、サメだァ〜!」 手をつかんで海に駆けていた多岐はなにかを思い出したように途端にハッとしてその手を離す。 トクンと心臓が跳ねた気がする。 無意識に榊原の手を握ってしまった。 ゲイなのに、嫌だと思われていたらどうしよう。 「……」 「情緒不安定か、お前は」 「痛たっ。なんで叩くの」 「笑ったり変な顔したり落ち込んだり忙しすぎなんだよ。少しは自制しろ」 「変な顔とかウケる。顔芸したっけ〜?」 なにも口に出さない榊原に救われる反面、避けたいだけなのではと不安が湧いてくる。 手を繋ぐのはさすがに嫌かもしれない。 「……サッキーて、彼女いたことあるの」 「失礼だな。あるに決まってるだろ」 「何人くらい?」 「100人」 「ウソっ!?」 「嘘だわ、バーカ。3人だよ」 「え、少なっ! 50人はいてもおかしくないのに」 「セフレみたいなんは結構いたけどな、もう覚えてねえ」 縁をなぞるように歩きながら海を眺める横顔は綺麗だった。 多岐の瞳にそう映るだけなのか。 いや、おそらく皆そうだろうと思う。 榊原は自惚れてもいいほど造形が整っている。 しなのんがいたら、絶対写真撮ってただろうなぁ…… 指で枠を作り榊原を囲った。 そこにいるのは海に負けず劣らずの男前だ。 目に見える容姿だけではなく性格も。 「サッキー、超イケメン」 「盗撮すんな」 「うわ」 目許を手で覆われてドキッとした。 多岐の好きな香りだ。 鼻腔をくすぐり下腹部をうずかせる。 2人だけの秘密ができてしまった。

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