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2人だけの
「写真撮りたかったなー」
家に着くと多岐はすっかりご機嫌モードだった。
男が好きな男を否定しない誰かの存在は自分を救ってくれるのだと。
ドクンドクンと鳴っている心臓の動機を考える。
単に苦しいだけなのかもしれない。
逃げなくていい、そう思えるだけで嬉しかった。
だが現実はそう上手くできていない。
翌日、多岐が2限目から講義へ行くとヒソヒソと話しながらこちらを一瞥する男がいた。
男2人がクスッと笑うたびに多岐の鼓動が速くなる。
違う、だろう。気のせいだって、うん。
「ゲイとかキモ……」
「ッ!」
やっぱり自分のことだ。
あの男は昨日声をかけてきた男の友人なのだろうか。
多岐は苦しくなる胸を押さえて大きく息を吸う。
落ち着け……落ち着け。
必死に言い聞かせて2限を終えると、勢いよく講義室を飛び出した。
どこに行こう、今日はたしか稽古がなかった。
榊原はどこにいるんだろう。
同じ学部なのに居場所が分からない。
「はっ……はぁ、は」
たどり着いたトイレで何度も手を洗い、顔に水をかける。
備え付けのタオルに手を伸ばしたときだった。
「よう」
「! ……阪口」
あまり仲がいいとは言えない同級生の阪口がトイレに入ってくると、後ろ手に鍵をかけた。
「な、なにしてんの〜? そこは個室のドアじゃなくて出入口……」
「お前さ、ゲイってマジなの?」
「ッ! ……なな、なんで」
「その反応は図星だな。いつもおちゃらけて何考えてんのか分からなかったけど、そういうことか」
「……」
サッと血の気が引く。
まさか学部の全員に広められたんじゃないのか。
そう思うと、突然視界が狭くなっていく。
「男イケんなら、ケツ貸せよ」
「いっ、……!?」
「実は前からいいなと思ってたんだよ。お前の体つきエロいし男にはウブな態度見せるじゃん? 可愛いなって思ってたわけよ」
「やめッ……なにす、おい!」
壁に追いやられて衣服に手をかける。
恐怖で呼吸が乱れ、視界がぐるぐる回る。
怖い、怖い怖い…っ
カッターシャツを簡単に脱がされた。
「あ゛ぁっ……ハッ……やめ、ろ……!」
「やめねえよ」
「ンっ……」
差別されるばかりで触れられたことのない胸の突起を強引に摘まれた。
痛みで顔をゆがめ、ガクガクと震える足をなんとか奮い立たせる。
「ハァッ……はぁーっ、はッ……や、め」
「興奮すんの早すぎだろ……キッモ」
やばい、怖い、気持ちよくない。
震える手で男の腕を掴んでも全く力が入らなかった。
呼吸法が分からなくなってひたすら浅い呼吸を繰り返す。
大声で誰かを呼ぼうと考えた途端に口許をネクタイで縛られてしまった。
「ふぅ、んッ……ふーっ……」
「……はぁ、やっべえ、女よりエロいし」
「んんっ、ふ、ぅんッ」
乳首への刺激で腰は震え、恐怖で心拍数が急速する。
雑音の幻聴が多岐の脳を侵し、とっさに耳を塞いだ。だが、音が消えることはない。
「んんう……っ、ふ、ゔぅ」
「泣くほどイイのかよ……ド淫乱が、こっちも勃たせてキモすぎ」
「ゃ、うんッ……」
死にたい。
男が好きと言っても、誰でもいいわけじゃない。
多岐は京極が好きだ。
京極以外の男に襲われることほど嫌なものはないのに。
「うわぁ、ネチャネチャ言ってんぞぉ? どうよ、淫乱」
「ン、ふーっ……フッ……」
苦しい。目の前が真っ暗でなにも見えない。
俺はこのまま死んでしまうのかと思った。
耳を塞いでも目をつぶっても声を殺しても、助けはやってこない。
皆ゲイを気持ち悪いと思っている。
そう、俺は嫌われたんだ。だから誰も____
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