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2人だけの

「ンンッ……ぐ、ぅ……!」 「う、わ、イキやがった……きっしょ〜。マジで男に触られて感じてんじゃん」 ギャハハ、と笑う声が耳に響いて消えてしまいたくなる。 過呼吸になって苦しんでいる多岐を阪口は興奮していると勘違いしている。 目の前がゆがみ、脳に血が上っていく。 強引に背後から尻の入口をまさぐられると、強い吐き気に襲われた。 「ン゙っ! ……んん、っ」 「おお、入る入る」 「フーっ……ふ、ぅ……ふ、んぅ」 苦しい。痛い、怖い…… 誰か助けて……誰か助けてよ。 耳を塞いでも聞こえてくる無数の罵声や笑い声に涙が止めどなく溢れだす。 どうして自分はゲイで、悪者のように扱われるのだろう。 望んだわけじゃないのに。 「んんっ! ンぅッ……、」 阪口の勃起したモノが多岐の後孔を抉る。 差し込まれた異物感でおかしくなりそうだった。 「は? お前処女かよ。ハッハ! 男と寝まくってんのかと思った」 「ふぅーっ……ふう、ん……ッ」 痛い痛い痛い……っ いっそ殺してくれと叫びたかった。 どうせこうなるのだから。 自分は尊重に値する人物ではなく軽蔑される存在なのだと。 ならば最初から存在しなければいいのだと。 ネクタイを解かれ髪を引かれた。 「ハッ……はぁ、はっ……あ、は……」 「ほら多岐よぉ。お前の好きな男だぞ? もっと喜べや」 「はぁー……ア、グっ……はッ……」 焦点が合わず、口端から涎が垂れる。 俺はここで死ぬ。そう確信した。 窓から晴れた空が見えて、どうして今日は雨じゃないのだろうと思った。 「____やべ。次の講義、山下じゃん」 何時間経ったか分からない頃に阪口から解放された。 ぐったりとタイルに横たわった多岐は震える体をなんとか抱きしめる。 動けない。 汚れてしまった。 「っ……はぁ……」 呼吸を整えてそろそろと立ち上がる。 だが動悸は止まらず、胸を掴んで大きく息を吸った。 阪口の汚れた精液を拭き取って手を洗う。 死んでしまいたい。 そう思ったのは一瞬で、多岐はトイレを出ると足を引きずるように玄関へ向かった。 「もう少しだなぁ、一稀」 「っ!」 渡り廊下で京極らしき声を聞いた。 顔を上げると庭先に京極と榊原がいて、2人は軽い稽古の最中だった。 多岐は泣きつきたいほどの哀しみを感じたが唇を噛み締めてその場を後にする。 会いたくない、誰にも。 男に襲われたと知れば、さすがのあの2人でも自分を嘲笑するかもしれない。 なら最初から言わない方がいい。 「多岐っ」 「!!」 言わない方が。 「多岐? 探したんだぞ〜。これから簡単な稽古を一稀とするんだけど、見る?」 「……」 背後から聞こえる京極の声。 震えが止まらなかった。 「多岐、どうし……」 「触るなッ」 無意識に怒鳴ってハッとした。 京極は驚きを隠せない目を向け、後ろから榊原も怪訝な顔で歩み寄ってきている。 笑わないと。 いつもみたいにニッて。笑え。 「……は……ははは……っ、なんちゃって〜……稽古するの? 見よっかなぁ〜、はは」 「多岐……?」 「……」 榊原と目線が交わった瞬間、サッとそらした。 見てはいけないものを見たようなゾッとする感覚。 不自然に震える手を後ろへ隠して、ひたすら笑顔を作った。 「な、なんでもないよ。ごめんごめん、いきなり叫んじゃって……本当にごめん」 「……千里、先に行ってくれ」 「え? でも」 「いいから先に行け。多岐、ちょっと来い」 「ッぅ、や……っ」 茫然とする京極を置いて榊原は多岐を空き講義室に連れていく。 掴まれた手から鳥肌が立って涙が出そうになる。 人の手がこんなにも怖いものだと、何年ぶりに思っただろう。

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