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想い人

「京ちゃん、ツーショ撮っていい!?」 「おう、いいよ」 京極と話したがっている女性客の姿がチラホラ見えて多岐は早々に切り上げようとシャッターを切った。 憧れの京極とのツーショット。 自分は満面の笑顔だ。 「ありがと! ファンが待ってるから俺は行くねっ」 「あ、ああ! またな」 京ちゃんとのツーショだぁ。 夢にまで見てたんだっけ。 こんなにあっさり叶ってしまうとは想像もしていなかった。 そして信濃達のいるところへ走っていくが、榊原と目が合いそうになり慌ててそらす。 「わ、わたし、京極くんのところ行ってきていい? 緊張するけど、写真撮ってもらいたい」 「なんだ美優ちゃん、俺に言ってくれたら京ちゃんに頼むのにー!」 「えぇっ、でも、うん……恥ずかしいっていうか」 照れて顔を隠す美優は女性というより女の子のような愛らしさがある。 「かわいっ」と多岐が言うと信濃がチャラ男だと茶化した。 「いいよ、私が連れていくから多岐りんは榊原くんとしゃべってて〜」 「!」 そうだ、サッキーとハイタッチ…… 振り返ると真顔の榊原と目線が交わった。 ひどく混乱する。 な、なんでこんなに緊張するんだ? 「は、ハイタッチしよ!」 「は?」 「おつかれのハイタッチ!」 「めんどくせ」 眉根を寄せた榊原と軽いハイタッチをする。 元々の男前がメイクをするとこうも色気を増すのか。 紅色のアイシャドウが美しく映えている。 「やばー、サッキーそのメイク超似合ってる……」 「メイクなんかしたくないんだけどな。女装してる気分だ」 「ウケる。あ、あのさ」 「なに」 「えと……ツーショット撮らない?」 いつもの陽気でバカっぽい自分はどこへいったのだろう。 多岐は微かな胸の鼓動に眉をひそめた。 「なに緊張してんだよ」 「うぇぁッ!? きき、緊張してないけど」 「役者は俺らの方だろ。客が緊張するとか意味分からねえ」 小刻みに震える手からスマホを奪い取られ、強引に腰を引き寄せられる。 ドキッとしたのもつかの間、シャッター音が鳴った。 「ほら、撮れたぞ。つーかお前の連絡先知らねえんだけど」 「っ! あ、ああ……そうだったぁ」 「次は1年後だろうな」 「へ? 舞台が?」 「そ。イベントはあるかもしれないけど、俺が舞台に立つのは1年先だ。お前の好きな千里は半年後にも出る」 「……」 もう一度、榊原の演技が見たい。 だが榊原と京極は目指す方向が違う。 榊原にとっては舞台に立つことは趣味なのだ。 「俺、サッキーの次の舞台も見たいなぁ〜」 「……」 無視されたと少しショックを受けたとき、スマホの画面にスタンプが表示される。 lineで送られてきた『頑張ります!』と書かれた猫のスタンプ。 今の今、連絡先を交換しあった榊原だった。 思わず口許が緩んでわざとらしく吹き出す。 「やば、サッキーかわいいかよ!」 「そのタイプしか持ってないんだよ」 「全っ然、似合わない」 「うるせえ」 榊原のアイコンは犬を抱いた榊原自身の他撮りで、さりげない微笑みが優しい。 「犬飼ってるの?」 「飼ってた。1年前に死んだんだよ」 「……そう、なんだ」 榊原は人を寄せつけないオーラがあって扱いにくいが、本心はとてもいいやつなのではないかと思った。 多岐のなかで榊原への印象は益々よい方へと上昇している。 努力家でゲイに偏見を持たない器の大きさ、まさしく多岐の心を救ってくれた恩人だった。 「た、多岐くん!」 「? 美優ちゃん、おかえり〜。どだった?」 「撮れたよ、写真! すっごい嬉しいっ」 「そっかそっか、よかったな〜」 父親の真似ごとで美優の頭をなでると、美優は頬を紅潮させた。 それに気づかない多岐は「しなのんも帰ろー!」とのん気に手を振る。 「じゃあね! 榊原くんっ」 「ばいばーい」 「早く帰れ」 多岐達が榊原から離れると、待っていましたと言わんばかりに女性陣が榊原を囲んだ。 ファン確定だなと内心焦りを感じたのはなぜだろうか。

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