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第2話

今の時期だけバーカウンターが川床に設置されているその店は若者で溢れていた。つい数分前に奇妙な出会いをした僕達は辛うじて空いていたカウンター席に腰掛ける。 「何飲む?」 白い男は肘をついて顎を掌に乗せ、メニューをテーブルの上に滑らせた。 「……じゃ、ビー」 「モヒートがおすすめ」 言葉を遮られて、初対面と言えどもムッとする表情を抑えきれなかった。 「……モヒート」 刺々しい言い方になったけれど、気にしない。どうせもう会うこともない男だ。 「モヒートふたつと、チーズの盛り合わせで」 気にしていないのか、気づいていないのか、平然と白い男はバーテンダーに声を掛けた。 「俺チーズ好きやねん、君は?」 「……好きだけど?」 (ヤギ以外はな!!!!) 掴みどころのないフワフワとした白い幽霊男は、バーテンダーにも見えているようだから人間には違いない。人当たりよく笑いかけてきて、きっと感じの良い好青年なのだろうけれど今の情緒不安定気味な僕にとっては苛立つ要素しかない。 ミントの香りが爽やかなモヒートなるオシャレな飲み物が目の前に置かれて、ヤケになって一気に煽った。 「うわあ、お兄さんええ飲みっぷりやなあ!」 手を叩きそうな程に満面の笑みで煽てられて、まあ……悪い気はしないのが僕の単純な所だと自覚はある。 「…………美味しい」 「ほーらねっ」 ニヤニヤとグラスに口をつける男の横顔を見つめた。 変なヤツだ。 その明るい茶色の瞳に僕が映り込んだ。 「鴨川で自殺図ろうとする人初めて見たわ」 「っ!自殺なんかしようとしてないし!」 「そうなん?今にも死にそうな顔してたで」 (僕は君を死んでいる人と思ったけど) つい言いそうになった言葉を寸前で飲み込む。 「なんかあったん?」 目を細めて心の奥まで見透かしそうなその瞳に出会って数分しか経っていないというのについ魅せられてしまって。 「お兄さんが癒してあげよっか」 「……」 あれ? 「ん?聞こえへんかったかな?」 これって。 座っている椅子をわざわざずらして背中を丸めるその男を、僕はかなり間抜けな顔で見つめていたと思う。 「君、可愛いなあ」 (う、わ……) こんな展開は全く考えていなかった。ただの変な男だと思っていたら。いや、変人には変わりないけれど、まさか。 「これって、ナンパ?だったん、です……か」 「え、なんやと思てた?」 まるでわからないというように肩を竦められる。 「いやいや!」 「嫌なん?」 「……ではなく」 「じゃ、ええやん」 「そういうことじゃなくて!!」 とんでもなく面倒な男についてきたんだと気がついて、僕は頭を抱えたくなった。

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