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「まだみんな、そろってなくてな。他は、去年からの持ち上がりが二人いるだけなんだ」  リビングはダイニングと続いていてとても広かった。ダイニングには対面式のキッチンも完備してある。 「おっきいですね」 「俺もびっくりした。全部で二十畳軽く越えるだろうな。庶民の俺にも、蜂たちにも、もったいねぇわ」  三宅さんは苦笑した。本当にもったいない。リビングのソファもふかふかで、テレビも大迫力の大きさだ。ゲームもやたらと充実していた。 「部屋割りはまだ決めてねぇんだ。二人一部屋で、さっきの廊下に二部屋とこの奥に同じように廊下があって二部屋がある。間取りはみんな一緒で一般の部屋よりちょっと小さいかも。八畳ぐらいかな。二段ベッドは一緒だった」 「二段ベッド……」 「あぁ、新見は一般部屋知らないか。なんでこの学校ボンボンなのに個室とかないんだろうな。荷物まだ、届いてないよな。とりあえずゆっくりしてて」  三宅さんはご機嫌にキッチンに入っていった。  僕はソファーに腰をおろした。手触りもよく、ちょうどいい弾力だ。  部屋は小奇麗で実感はわかないけど、今日から僕は蜂で、この部屋の一員だ。  この寮の部屋割りには変わった制度がある。部屋割りの際に同じ部屋になりたくない人のアンケートをとるのだ。富豪や名家ゆえの機密漏洩とか、他いろいろな事情が考慮されての制度だそうで、それに書いた人と同じ部屋になることはない。  ただそうなると、学園全員がこいつはイヤだといった奴が現れたらどうなるだろう。そんなことにはさすがにないと思いきや、数十年前にまさかの学園総意の嫌われ者がいたそうだ。ちょうどそのころ学園はピークの荒れようで、多くの票を得てしまった嫌われ者が多くいた。そういう奴らをいっそ一緒に隔離しようと計画されて、その結果できたのが、この八人部屋になる。通称ハチノス。嫌われ者達は蜂と呼ばれるようになった。   むちゃくちゃだ。入学したとたんに、学園総意の嫌われ者だと公開処刑をうけるなんてひどい話だ。 「コーヒー飲める?」 「はい」  三宅さんがマグにコーヒーを入れてきてくれた。飲むとびっくりするぐらいおいしい。脳を幸せにする苦さだ。 「部屋はほんときれいだよな。監督生やめる奴多いってきいたし、もっと荒れまくってると思ってた。これなら快適に過ごせそう」  この部屋は一応更正プログラムということになっているるので、更正する人が存在する。それが監督生で、今年度はこの三宅さんみたいだ。  監督性はいろんなおいしい特権があるらしいけど、監督生一人に対し問題児が七人なのだからたいへんどころじゃないだろう。 「おいしいですね」 「なんか高そうな豆だったわ。誰のだろう? 他のやつおせーな」 僕の手は固まったけど、ずずと音を鳴らして三宅さんはコーヒーをすすった。  この人がどうなるかわからないけど、この少しの時間でたいへん図太く肝が据わってるということは感じられた。 「三宅さん。楽天家ですね」 足を延ばしてくつろぐ姿はもう自分の家にいるみたいだ。 「まだどうなるかまったくわからんなら、楽しいと考える方が吉だろ。俺、新見も同じタイプだと思ったけど」  そうだろうか。さすがに、三宅さんほど、楽天家ではないと思う。でも、自分の部屋以外にこんな空間があるのは快適で、一口飲んだコーヒーは美味しかった。僕は意を決して、もう一口、舌の上に流した。  のんびり三宅さんとテレビを見ているとリビングに急に人が現れた。  長身の男が僕を見下ろしている。 「えっ、こんなやつもこの部屋いるの?」  えらいかっこいい男だった。顔も体もすべてに色気のある男だ。長めのセットされた髪はどことなくチャラさもあるのに黒いからか大人な感じがする。  戸惑ってると後ろからさらに一人はいってきた。こちらはいかにもな不良だ。オレンジの明るい髪に派手なワッペンがついたジーンズ。大量のピアスが威嚇している。 「インターホンならしたんだけど、無視かよ」 不機嫌にオレンジ頭がいった。 「すまん。壊れてるんだ。明日なおしにくるらしい。えっと後一人だな。一回集まろうか」  三宅さんが席を立った。横の男たちからの視線はいたいけど、今日から一年おなじ境遇の仲間だ仲良くしたい。  僕は意をけして、こんにちは、と多大なる愛想を振りまいたけど、二人ともに微妙な顔をされた。

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