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三宅さんが去年からの持ち上がりの二人を連れてきた。
一人はダークジーンズに黒いシャツ黒い髪で真っ黒だ。細いフレームの眼鏡の中の目は鋭利に感じるけど、美形といわれるタイプのイケメンだ。
もう一人の人は対照的に柔らかい目元でルーズなカーディガンというとっつきやすい印象だ。髪は明るいアッシュで不良っぽいけど、とげとげしさは感じない。
こうしてみるとあからさまな不良さんはオレンジ頭とさっきの一年生の二人だけみたいだ。それがいいこととはかぎらないけど。
さっきの一年生はもう戻ったきていたようで、三宅さんが迎えにいったけどつれては来なかった。
「一人は今日は帰らないと連絡を受けてる。もう一人は部屋で引きこもってる。返事もないし、中からなにかしてるみたいで開かないから、とりあえずこの六人で自己紹介と部屋割りを決めたいと思う」
オレンジ頭の人がいかにも不良な不満をあげたけど、三宅さんが無視して自己紹介を初めてしまった。
「今年の監督生、2ー5三宅慎太郎だ。スポーツ特待の柔道専攻で入ったけど、膝を壊して、一般行き。学費を払えないから、監督生に立候補した。ここ辞めたら即退学だから、問題を起こさないでくれ」
三宅さんはなかなかハードな素性を事務的に話した。でも、みんなひっかかることなくさらっと流してる。三宅さんはそこから、司会になって上級生から自己紹介を促した。
「3ー1 嵯峨崎睦(さがさき むつ)。基本的に部屋から出ないから、ほおっておいてくれたらいい」
「3ー3 久河総司(ひさかわ そうし)。別にヤンキーじゃないので、仲良くしてもらえばうれしいです」
黒づくめの嵯峨崎さんと、柔和な久河さんは去年からここの持ち上がりのようでリラックスした雰囲気だった。今の時点でまったく嫌われ者な感じはしない。
「2ー5 鈴木一成。どんな人間でも抱けるのでよろしく」
みるからにフェロモンな感じの鈴木さんはそう言った。あからさまに三宅さんはげんなりした表情をして、鈴木さんがここに入れられた原因がわかってしまった。
みんなが学年と名前を告げていくのでオレンジ頭さんは、ぶすくれた顔で2ー2葉山智と自己紹介した。
「来てない二人の名前はー?」
次は僕の番だと思ったら、久河さんが横やりを入れた。久河さんはどこから持ってきたのかじゃがりこを食べている。
「今日は来ないのが3ー7 七瀬黒太で、今寝てるのが1ー4 間宮悟」
「七瀬って、あの物理日本一のね! 7って特クラじゃん。個室じゃなかったの?」
この学校には普通科以外にも違うクラスがある。七組は特別クラスで、一芸に秀でてる人が集まっている。基本的に時間割が選択で、大学に通ったり、芸能とか、社長とか他にすることがある人などが在籍している。生活リズムが自由かつ個性的な人が多いので、このクラスの人は個室をもらえるのだ。
「個室さみしいって駄々こねたんだとさ。でここになった」
普通高校生って一人部屋が恋しいんじゃないだろうか。それだけどもちょっと変わっている人だとうかがえた。
「間宮はあれだね、中等部からの問題児だね。ここに入るのもわかるか」
久河さんはじゃがりこをボリボリと噛んでいる。ほかの人は間宮を知ってるのか知らないのか、リアクションは特にない。
ふと、僕の目の前に箱を差し出されたので、一本いただいた。じゃがりこはいつもどおりおいしい。
「君がそれで、あの人間☆新見の弟ね」
久河さんはにんまりと僕を見た。
そこにいた全員の目がこちらに向いた。僕は軽く苦笑いをする。
「はぁっ!!」
それまで、ずっとローテンションだった葉山さんが大きな声をあげた。
「あいつに俺のいたチーム、壊されたんだけど」
いかにもヤンキーな目でガンをつけられた。そのままなぐってきそうな勢いだけど、葉山さんは僕からは遠い。他の人たちが僕に興味を持っているので、なんとか押さえてるみたいだ。
「そんなに兄は有名なんですか? ここの学園の生徒でもないのに」
「だからおまえはハチノスに住むことになったんだろう」
嵯峨崎さんが口を開いた。声も威圧感のある美形な声だ。
「この学園には不良も多い。その不良が活動してるのは近くのN繁華街と、周辺の地域だ。そこが根城のTNGとぶつかるのは当然だし、所属していた生徒もいたと聞いている」
「新見はほんと狂ってるって有名だったしね。TNGって名前も天才☆新見☆軍団ってチーム名を呼ぶ方がはずかしいって略されたものだし。メンバーも仮装ばっかで見た目も派手だったし。もうすべてが伝説でしょ」
久河さんがじゃがりこをそのまま食べながらのんびりとひきつぐ。
「思い出したらほんと腹立つ!! だいたいメンバーが仮装してるのに本人が人間☆新見ってなんだよ! ふざけてるのかって! ふざけてるんだよな!!! あぁ腹立つ。なぐらせろや!!」
葉山さんがすごい顔でにらんで来るのを三宅さんがなだめている。
「新見逮捕のときは学校も騒然としていた。結局しょっぴかれたのは新見だけだったみたいだな。新見弟は兄と不仲だったのか」
嵯峨崎さんは本当に気楽に僕に尋ねた。三宅さんが止めるべきかどうかこまっているようだ。
兄のことを思い出す。本当にどうしようもない男だ。そんなに背は高いわけでもない。見た目は細いし、顔も僕と同じで童顔だった。それでも彼は多くの人におそれられていたのだ。
「兄は僕にとってとても優しい兄でした。いまでもたまに会いにいきますよ。とても元気でいつもおもしろおかしく、中の話をしてくれます」
「へぇー。まぁ新見に弟がいる話は有名だけど。君はメンバーにはなってないんだよね」
「はい。僕はそんな根性はなかったので」
「じゃあ、次の話だけど」
僕の話が一息ついて、次の話に移ろうと三宅さんが話し始めるのを葉山さんはさえぎった。
「わかんねーよ。あのチーム、顔、隠してるやつ多かったし。この学校にもメンバーいるって噂なのに出てこねぇ。というかあいつの弟ってだけで同罪だろ!」
怒り猛るように吠えて葉山さんが俺に飛びかかってきた。三宅さんが止めようとしたけどそれは一歩遅い。他の人はみんな見てるだけだ。
ソファが大きな音をたててて後退した。そこにたおれているのはオレンジ頭だ。
「僕たちは忙しい両親の代わりに厳しい祖父に育てられました。祖父は軍人で、僕たちをきびしく教育しました。軍人の戦い方はルールなんてなくて、ただ自分を守るため相手を倒すためのものです」
葉山さんは打ち所が悪かったのか涙目でえづいた。
「僕は大好きな兄をけなす人は敵とみなしますが、基本的には平和主義者です。みなさんよろしくおねがいします」
軍人仕込みのただしいお辞儀で僕はあいさつをした。
「歓迎するよ」
と久河さんが笑ってくれて三宅さんも安心したといってくれた。意外とうまくやっていけそうだ。
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