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どんなかんじ? 1
買ったサンドイッチを食べる。お供の紅茶はキッチンに有り余ってる紅茶のバッグで作った。これがおいしくて、ハチノスでもいいことはあるんだと感動した。嵯峨崎さんが無類の甘いもの好きらしく、自分で食べたあまりをキッチンに置くので、いつでもおいしいお菓子やそのお供のお茶類がある。今日のお菓子はクッキーだ。
「ハチノスってどんな感じ? みなみ平穏無事そうだけど、どうなの実際?」
クラスで昼ご飯を食べていた。友人の依田がパンをかじりながらそう聞いてきた。
「今年は平和みたいだよ」
「まあ、そうだよな。暴れるのは葉山と間宮ぐらいだもんな」
依田はつまらなそうに言った。依田は新聞部なだけあって情報通で、ハチノスのメンバーのこともよく把握しているらしい。
ハチノスに入ってしまって友達なんかできるのかなと心配したけど、無事一人ご飯はしなくて済んだ。ハチノスのことをさぐる依田は、僕の情報目当てみたいだけど、本人がどことなくやる気がないからそれほど気にもならなかった。新聞部は向いてないんじゃないだろうか。
「ハチノスってさ、よく知らないんだけど、結局なんなの?」
横尾は自作のお弁当という女子力なものを食べながら言った。
お昼を一緒に食べてるのはもう一人あわせて四人だけど、依田以外はみんな外部生なので学校のルールについて知らないことも多い。横尾はだからと言って、あまり気にしない雑な性格でルールに疎いままだ。僕も外部性だから、ここのルールには疎いけど、彼ほどではない。
「嫌われ者を集めるって奴だよね。そんなルールあるなんて知らなかった」
「東は一人部屋だからアンケートもなかったんだろ」
もう一人の東は特待生で頭がいいので、一人部屋をもらっている。
「どういうやつが集まってんの?」
横尾はレンコンをポリポリ言わせながら話す。
「いろいろだね。普通にいい人で、理由がわからない人もいる」
聞きにくい、と言おうとしたら依田が意気揚々と割り込んできた。
「お答えしましょう」
依田がいきりたって、手をマイクにしてる。
「えっと」
なんだかこういうふうにこっそり聞いてしまうのは悪い気がした。でも依田がなんのためらいもなく話し出すということは、きっと僕たち外部性以外は周知の事実なんだろう。
僕を見た依田に目で続きを促した。依田は一度咳ばらいをする。
「現役の不良は、さっき言ってた葉山と間宮だけ。葉山さんは学校のでかいチームの特攻隊長。間宮はよく街に降りてるらしいけど、どっかに属してはないみたい。三年の嵯峨崎さんは有名暴力団の息子だから。でも、本人は物腰やわらかいみたい。それはそれで怖いし、一回停学になってるけど。久河さんは、学校外のチームの元幹部。問題起こして揉めてハチノス行き」
いつも温和な久河さんと、やたら甘いもの好きな嵯峨崎さんの顔が思い浮かぶ。二人の事情は驚きだったけど、聞いてもそんなにイメージは変わらなかった。やっぱりなんだかんだで、二人ともなにかにじみ出ているものがあったんだろう。明日からも変わらずやっていけそうで、ほっとする。
「いろいろあんな。というか、そんなにチームあんの?」
確かに今どきチームというのも流行らないのかもしれない。
「田舎だからねー。学校の中での大きいチームは2つぐらい。個人で街に降りて属してる人もいるよ。でもTNGの発足から新見逮捕までで、どこも情勢が変わったって話」
そこまで言って依田はあからさまな失敗したの顔をした。
「ほかの人は?」
僕は気にしてない顔をして依田にふる。
「あとの二人は、七瀬さんは七組で七組特権の一人部屋ことわってハチノス行き。鈴木さんは色恋沙汰で、問題起こしまくって。鈴木さんはアンケートっていうより、部屋変え多すぎて、寮母さんとか苦情が多かったみたい」
「みなみ、気をつけろよ」
素早く横尾が僕の肩をたたく。彼は好きな人がこの学校にいるそうで、バイだと公言してる。だからかすぐに、こういうネタにはしる。
「すぐそういうこと言う。三宅さんいるし」
「監督生はけっこうやめるらしいけど。監督生って経済的にいろいろあるやつ多くて、ここやめたら退学なのに、もめ過ぎてて鬱になって強制送還パターンが王道。今、志願者少ないってきいたわ。今年はでも楽っぽいな」
「そうみたい」
三宅さんはだいたいリビングでお菓子を食べながらゲームをしてるので歴代の監督生の人から恨まれそうだ。
「人生いろいろだな」
と横尾が思いっきりのびをしている。
「ほんとだね」
世の中にあるいろんな生活パターンの中で、こんな部屋に入れられてる僕もいると思うと、不思議だ。
「ハチノス行きてーな」
依田つぶやいた。
今年は平和だ平和だと言われて、去年の様子をきくとその通りだと思う。部屋はまだきれいなままで使われている。
「やめといた方がいいと思うよ」
でも実は、葉山さんが荒れて、ものに当たって、嵯峨崎さんが葉山さんを半殺しにしたことがある。僕はそれを後から久河さんの話で聞いただけなので見ていなかった。夜中だったそうだ。僕はその日は自分の部屋でぐっすり寝ていた。無駄にハチノスは防音が高い。嵯峨崎は人を真顔で暴行していた、と三宅さんは珍しく引いていた。それから葉山さんは寮にあまり帰ってこない。机にはそのときの傷が残っている。
「一回だけでも?」
「うん」
鈴木さんからも誘われまくってるし、久河さんがいろんな人にはっぱをかけるからぴりぴりしてることっもしょっちゅうだ。
「そんで、みなみは誰と同じ部屋なの? ハチノスって間取りLDKと四部屋で、各二人づつだよな。一年同志、間宮か?」
「そう」
そして僕は部屋で寝れる日が少ない。
「仲はいいの?」
東の少し心配した顔に僕は苦笑いした。
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