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「それは優しすぎるだろ!」
依田に間宮とはどうなのと聞かれたから、近況を言ったら、つっこまれた。かれはいつもハイテンションだ。
「でも、僕いまのところなにも困ってないんだよね。普段はリビングでずっといるから、部屋は物置みたいなものだし」
これは本音だ。間宮はわかりやすく行動してるから、どうしても困る事態は起きてない。
「それでも、不当に侵害されてるわけじゃん」
「それはそうだけど、でも、僕が嫌われてるわけじゃないと思うんだよね」
僕に会いたくないってことはわかる。だから閉め出されたんだ。でも僕の荷物は無事で、しかもいなければ部屋には入れる。僕が嫌いでいやがらせをしたいならすごく中途半端だ。
「頭おかしいって!」
依田は僕に引いている。
「俺はわからないでもないけど。入れるってことは受け入れられてるってことじゃん?」
「極端! ヨコは頭おかしいから、そこにわかられちゃだめだー! 考えを改めなさい!」
依田が僕にそう訴えてる。
「どうしたら、間宮と仲良くなれるんだろう」
依田に揺さぶられながら、ぐるぐると考える。間宮の姿さえ僕はあまり見たことがない。最初の溶けそうな金髪と、締った上半身の姿で僕の中の間宮は止まってる。
どうしたら仲良くなれるんだろうって、その考えは日に日に大きくなっている。でも、結局、僕は動けない。そういう自分はきらいだって何度も思ったはずなのに。
足を踏み出したかった。おせっかいでもいいから、間宮と少しでも打ち解けたい。
「あっ」
突然、そう声をあげた僕に依田がびっくりする。
そういえば、初対面の時、間宮は僕を知ってるみたいだった。彼は僕を嫌いだと言ったのだ。
「やっぱり、ダメなのかな」
初日はいろんなことがありすぎて、すっかり忘れていた。彼は確かにそう言った。
「みなみが人に嫌われるなんて、あんまり想像つかないけどさ、一回やっぱりちゃんと話してた方がいいんじゃない?」
ずっと話を聞いていた東がそう言った。
「うん」
依田が危険だ危険だと騒いでる。依田は間宮の黒い噂とかそういうのを知ってるのかもしれない。だからこうやって止めてくれるんだろう。聞けば教えてくれるだろうけど、その先入観を持つ前に仲良くなりたいし、いいところを見つけたい。
「ちょっと、がんばってみる」
それがどう出るかはわからないけど、踏み出さないと始まらない。
「もし、仲良くなれたら、新聞部をよろしくお願いします」
「調子が良すぎる!」
依田は最後にそう言って、ヨコに殴られていた。
今日も普通に閉め出された。今日は学校はサボりだというのは聞いた。依田情報だ。いつも真宮は何をして過ごしているんだろう。それを知ることは僕にできるんだろうか。
引き返してリビングに入ると、三宅さんがゲームをしていた。
「今日は、一人ですか」
「そうそう。みなみは? 閉め出されたか」
「はい」
「困ったな。みなみもいっそ荷物全部だしといたら? それはそれで葉山がいるか」
「気にしないでください」
もう閉め出されることが日常茶飯事なので、いろいろ対策はしてある。それに間宮も夕飯と風呂には外に出るので、一日入れないことはない。
「監督生だしな」
三宅さんは顔は真剣だけど、コントローラーを握りっぱなしだ。
「他の人たちは順調なんですか」
僕も横に座って、コントローラーを握る。一人プレイから二人プレイに変更した。可愛い顔して敵を丸呑みの主人公も可愛いけど、2Pはいろんなキャラが使えておもしろい。
平和だった。争いはまずおこらない。リビングでは三宅さんと久河さんやたまに鈴木さんがいたりする。嵯峨崎さんも長居はしないけど、買って食べきれなかったお菓子を置きにきたり、飲み物を入れたりで、顔を出す。何度かお菓子の感想を話しかけたりしてみたけど、だいたい落ち着いた返事をもらえた。
「みんな大人しいな。鈴木は出歩いてるけど。なんか自分の部屋に帰るみたいな口実ができて、むしろよかったみたいなこと言ってたわ」
「こりないですね」
鈴木さんの姿はよく見る。とても親切でもてるのもよくわかる。あと、ボディタッチがすごく多い。
「むしろかっこいいな。あとは、葉山か。葉山は最近は全然帰ってきてない。チーム入ってるはずだから、勝手には動けないはずだけど」
「チームに入ってたら動けないんですか?」
なんだかおかしな話だ。
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