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「チームに所属してると、不良ってマークされて、学内でちょっとでも問題起こすと風紀が制裁入るから。だから学内では問題は起こさない。不良同士の争いにはゆるいみたいだけど」 不良にも不良のルールがあるみたいだ。 「そういうのがあるのに、ここに入れられたのは、葉山さんひとりなんですよね」 ずっと謎だった。依田の話では大きなチームも二つあるし、不良も多い。なぜ、チームの中で葉山さんだけが選ばれたんだろう。 「俺は不良じゃないしそんなに詳しいわけじゃないけど、葉山、去年の冬終わりに生徒何人かボコって病院送りにしてんだよ」 「えっ」 「みんなチームには入ってないけど、素行不良の生徒だから、厳しい罰はなかったみたいだけどさ。チームって上下関係厳しいし、勝手に行動するとすぐ因縁とか、風紀とかあるからか、チームの不良って学内で個人行動はあんまりしないんだ。だからハチノスに来るやつは、勝手に行動して問題を起こしたか、よっぽど凶暴ってこと」 「葉山さんはなんでそんなことしたんでしょう?」 「まぁ、予想できるのは、新見兄がここら辺のチーム全部ぶっ壊したからだな」  三宅さんはとても陽気に言ってのけた。ポーズにしたゲームの中でピンクの愛らし物体が背伸びしたまま止まってる。  一気に血の気が引いた。三度ぐらい体温が下がったと思った。 「えっ」 「全部一回めちゃくちゃになったらしい。うちにあったおっきい2チームも総長引退で解散したって。なんだかんだで、最近また同じ仲間で集まったみたいだけど。でも代替わりがちゃんとできないし、今も不安定なまま続いてるそうだ。壊した本人は捕まって何もできないし仲間もわからないわで、不満なやつも多いらしいよ。たぶんそこのところが関係あるんだろ」 僕は思ったより事態を楽観視していたのだろうか。僕は不良の界隈に詳しくない。兄は僕が夜の街に出ることをいいとは思っていなかった。兄は、夜の街のことをなにも離さなかった。知っていたのは、兄はすごく強くて、兄のチームも強いらしいという情報だけだ。だから、兄が実際に何をしていたのかも知らない。  N繁華街は昔から夜になるとけんかや、バイクの音がうるさい。ここ数年それがひどくなって、最近それがましになったという話は周辺の住民の共通の認識だった。 それは、兄の存在と比例しているようだ。 「新見ってほんと、むちゃくちゃだったみたいよ」 苦笑いしか出ない。  覚めた空気の中、久河さんが帰ってきた。久河さんの部屋は奥なので、帰ってきたら必ずここを通る。 「久河さん、詳しいんじゃないの?」 鼻歌交じりでご機嫌の久河さんに三宅さんが話しかけた。 「なにが?」 久川さんはブレザーを脱ぎ捨てて、ネクタイを緩める。 「不良の勢力図」 「詳しいけど、おれ、離脱してるしな。去年いろいろあったし、新年度でまだごたごたしてるし」 その去年のいろいろは兄がらみなんだろう。 「なに、誰から恨みかってるか、知りたいの?」 久河さんは至極楽しそうに、僕にそう問いかけた。 「ただじゃ無理だよ。俺、情報屋だったからね」 「情報屋?」 「いろんなチームの情報を流して小銭を稼ぐ人のこと」  ふーんと言ってから、疑問がわいた。 「あれ、それって、チームに入っててもできるんですか?」  久河さんは元々チームの幹部だと依田が言っていた。どこかのチームの人の情報だと、偏りや、そのチームに有利な気がして信用をかくんじゃないだろうか? 「よく気づいた。賢いね」  久河さんはとてもうれしそうに言った。ふふふと笑う。 「専属の人もいるよ。でも、そういう人はチームの一員として働いて、お金も稼がないから屋じゃないし、参謀とかになるのかな? おれは情報屋で、それを隠してチームにいたから、ボコられてここに入ったわけ。まぁ、情報横流ししてかせいでたんだよね。この学校で一番信用が置けないやつが、俺ね」 久河さんは一息もおかずに、次の話を畳みかけた。 「同室のよしみで教えてやると葉山は完全に敵。葉山のいたブラックナイフは新見に総長ぼこぼこにされて解散。引退と解散を迫ったのも新見。葉山は特攻隊長で総長に傾倒してて、NTGへの報復って何人か一人でふらふらしてる不良ボコってた。そいつらはNTGじゃないって言ってるから、とんだ災難だな。どっちの根拠もないけど」 「そうですか」  さっきのピースが合致する。葉山さんはブラックナイフを解散させられてから、腹いせに不良をぼこぼこにして、ここにいれられた。 「気をつけたほうがいいよ。ここは嵯峨崎いるから暴れないと思うけど。あと、間宮も街で暴れてるみたい。あんまり、つつかない方がいいんじゃない」 久河さんは僕の頭をごしごしと撫でた。あまりかしこくない愛玩動物を見る目だ。視線を少し上げるとおでこに一つ古傷を見つけてしまった。そのボコられた名残かもしれない。 「ありがとう、ございます」 「いえいえ」 久河さんはさっそうと去っていった。 「久河さん、怖えー。葉山も間宮もどうすっかな。あんまり帰ってないのばれると呼び出しくらう」 「大丈夫なんですか?」 「まぁ、監督生は寮内の監視だから、寮の中で問題起こさない限りは結局は平気なんだけどさ。ラッキーなことに嵯峨崎がいるから、この部屋は平和だし。だから、みなみもあんまり外に出歩くなよ」  三宅さんはゲームの再開ボタンを押しながらそう言った。

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