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 久河さんが寮に入った理由が分かった。葉山さんの理由は兄のせいだというのもわかった。  じゃあ、間宮はなんでここに入れられたんだろう。やんちゃな上級生がごろごろいるのに、ちょっと前まで中学生だった間宮に、そんなにも拒否の挙手があがったんだろうか。  そんなこと気にせずに、ここにいれられるようなやつだから問答無用に悪い奴だから、かかわるなって、依田とかだと思うかもしれないけど、僕もここの一員だ。ここに入れられるからって悪い奴って限らない。そもそも悪い奴の定義って何なんだ。  久河さんにもさりげなく釘を打たれたど、ここに入れられてる一年は僕と間宮だけなんだ。それに、僕はたぶん、不良というものが好きなんだ。だってほら、不良って優しい人だとかなんたらかんたらって誰かが言ってた気がする。  いつも僕が大浴場に行ってる時間に間宮が帰ってくる。僕は基本的にお風呂は大浴場を使う。ここのお風呂は主に三年生が使っているようだけど、(いい匂いをさせた嵯峨崎さんとたまに会う)シャンプーの類は持ち込みで、最後に使った人が洗うのがルールなのでめんどくさいのだ。  ハチノスはびっくりするぐらい防音が聞くから耳を澄ませても僕が部屋にいるかはわからない。なんで間宮とはちあうことがないのか、不思議だったけど、よく考えれば難しいことじゃない。  大浴場にいくとき、もちろん僕は外に出る。玄関には靴は一足だけ出しておいていいルールだ。僕はお風呂やちょっとした用事で出かけるように迷彩の柄のフロックスを置いている。つまり、このフロックスが玄関にあれば僕は家にいるし、このフロックスがなければでかけてるってことになる。  加えて僕はご飯を食べて宿題が終わった後、だいたい同じような時間にお風呂にいくので、間宮からすれば簡単に僕に会わずに部屋に入ることができる。時間を少し予測して玄関で靴を確認するだけでいいのだ。防音のおかげで、玄関が開く音も廊下にいない限りはわからない。間宮は一度、帰ってきて、僕が部屋にいれば出ていくし、僕がいなけらば、そのまま部屋に入って鍵をかけて寝る。  ちょっと考えればすぐわかる簡単なことで、間宮は僕に会わずに帰ってこれる。でも逆に考えれば、ぼくはちょっとフロックスを隠すだけで、間宮に会うことができるのだ。  いつもより少しだけ早くお風呂にはいった。フロックスは靴箱の中にいれて部屋で待つ。  入ってきて僕を見つけてすぐに出ていかれても困るので、僕は死角になる机の下に隠れていた。  本当は前から、こういう風にしたら会えるって気づいてた。でも、困っていなかったし、僕自身も学校になれるまで時間がかかった。そろそろ落ち着いてきたし、これから、一年、もしかしたら三年、こんな調子では、僕というより間宮が持たない気がする。それに僕はろくに話せないまま分かり合えず手遅れになるのも嫌なんだ。  机の下で縮こまって過ごしていたら、扉が開いた。びっくりするぐらいうまくいった。  間宮は扉を閉めると、素早く鍵をかけたようで金具の音がした。この鍵は後からつけたつっかえ式で戸の下部につけられてるからしゃがんでかけないといけない。  すっと間宮はベッドに直行する。足が見えた。着ていたシャツを脱ぎ捨てるとわき目もふらず寝転んで壁を向いて布団をかぶった。僕は玄関から死角なだけであってベッドからは丸見えだ。それでも間宮は気づかない。その無防備さに思わずわらける。  イスをおして机からはい出た。  物音に間宮が飛び起きる。はい出た僕に目をむいてびっくりしてる。甘そうな髪が電気で光った。少し湿ってるみたいだ。大浴場で見かけた話も聞かないし、風本来は駄目だけど、ほかの階のシャワー室でも使ってるんだろうか。 「間宮、おかえり」 八畳ほどの部屋で二人きり。とても気まずい時間が流れた。鍵をした部屋にいきなり人が現れたから間宮にしたらホラーかもしれない。 「同じ部屋何のに、全然話せないから、ちょっと、強硬手段に出ちゃいました。僕も今日、ここで寝ていい? ソファばっかりは背中痛くってさ」  間宮は僕のことをじっと見てから戸のカギを見た。突き飛ばしてどっかにいくかなとか、殴られるかなと思ったけど、間宮は背を向けてねころんだ。  僕を見ていなかったみたいな態度に拍子が抜けた。 「間宮?」  声をかけてみた。間宮はぴくりとも動かない。まさか寝てはいないと思うけど、背中を向けたまま姿勢を変えない。 「間宮、ちょっと話せないか?」  動かない間宮に何を話しかけても返事はない。こういう時、兄ならどうするだろう。兄は人と打ち解けるのが早い人だった。  僕はそんな兄をいつも後ろから見ていた。  間宮はぴくりとも動かない。失敗したみたいだ。怒られるかもと思ったけど、完全無視だった。これなら切れられたほうが仲良くなれる余地はあったし、僕がいじめてるみたいだ。  いつまでも見ていても、どうにもならない。寝ころんだまみやの背中は石のように固まっている。 「間宮、ごめんな、だましちゃって」  間宮はどんな気持ちなのだろう。怒ってると思うけど、あまりの動かなさにそれ以上の拒否を感じた。  余計なことをしたもうしわけなさが冷や汗とともにでてくるけど、もうどうしようもない。  しかたがないので、寝ることにする。いつもより早いけど、二段ベッドの上に上がった。 「電気消すよ。ごめん。ちょっとでもいいから話したかったんだ。もうこういうことしないから、今までどおり帰ってきなよ。あと、間宮のご飯いつもあまってるから、ちゃんと食べなよ」  下に向かってはなしかけたけど、間宮はさっきの姿勢のままだ。上から見てもうつむせ気味で顔が見えない。間宮の姿勢はこの世のすべてのものを拒否してるみたいだ。電気のひもを引っ張って間宮を見えないようにした。 「ちゃんと寝なよ。おやすみ。」  間宮からの返事はもちろんなかった。  しばらくは寝付けなかった。間宮は静かで、寝ているのか寝ていないのかわからないけど、出ていく気はないらしい。  話し合えればと思ったけど、話し合えるような状態ではなかった。間宮は僕が思っていたよりもずっと、僕のことを嫌いだった。圧倒的な拒否だ。今まで話したこともないからなぜ嫌われたのかわからないけど、こういうことをしちゃう感じがいやなのかもしれない。  ほかに可能性があるとしたら、兄か、それともすべての人を拒否してるかだ。間宮はチームにも入らず個人で動いているとは聞いた。  どうにか仲良くなりたいし、せめて敵ではないことを伝えたいけど。  朝、間宮はいなくなっていた。間宮はいつも朝が早い。僕が気づかないぐらいには静かに出て言ったみたいだ。 「失敗したな」  明るくきれいな部屋で僕はひとりごちた。

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