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リビングで夕飯を食べる。いつも通り三食が残っている。食べられる可能性がない二食は量を減らしてもらったそうだ。七瀬さんはいらない日は三宅さんに連絡をくれるようになったみたいで、一緒に食卓に並ぶときはみんなで分けて食べた。
「間宮って姿みないけど、帰ってきてんの?」
ふと、嵯峨崎さんがそう言った。僕はどきっとしたけど、僕より先に鈴木さんが口を開く。
「まちまちだろ。葉山のでっかい靴よりは間宮の黒のフロックスの方がよく見るけど。みなみもよく閉め出されてるじゃん」
「みなみって閉め出されたのか?」
「だからやたらリビングにいるんだよ。こいつ」
鈴木さんは笑ってる。
嵯峨崎さんはへぇーといいながら食をすすめた。
間宮は確かに姿は見えないけど、ハチノス自体には以前と変わらず帰って来ていた。でも、間宮に部屋で会った日から、前より慎重に僕に会わないようにし、夜は帰ってこない。おかげで僕は部屋で寝ているけど、罪悪感が僕の中に住んだ。
たぶん依田に話したら何も悪くないと励ましてくれるだろう。一般的にも僕はそう言われてしまうんだろう。
僕が肯定されそうで、だから僕はまだこの話を誰にもしてはいない。
間宮は怒らなかった。あれから僕に何をするべくもなく、帰らないという拒否に出た。僕はとんでもない地雷を踏み抜いてしまったのかもしれない。強いことで有名な間宮が、見た目はどうしようもなくひ弱な僕が間宮弱いところに触れてしまった。誰かから見て、間宮がいつも閉め出すような身勝手なやつでも、その事情が、間宮の防衛本能が働いたものなのかもしれない。それぐらい、あの時の間宮はただならないかんじで、おかしかった。たとえ人に迷惑をかけることでも、自分ではどうしようもないことってあるんじゃないだろうか。
「いやでも、みなみちゃんは普通にリビングでお兄ちゃんたちと遊んでるのが楽しいんでしょ。かわいがられそうだもん」
久河さんがそう僕にふった。しばし、ぼーっとしていた僕は言葉の意味を咀嚼して顔がぐわっと熱をためる。
「いや、えっと」
鈴木さんと三宅さんはかわいいなと僕をつついた。僕はしどろもどろでそれに反応する。でも久河さんの顔を見れなかった。久河さんはたぶんこの二人のようないい印象で言ったんじゃない。
かわいがられたい汚いところが見透かされた気がした。ぶりっこまではしてないけど、僕は確実にそういう一面を持っている、じゃないと僕なんて一人称つかえない。
「えっと、葉山さんもみないですよね」
話題をそらそうともう一人の見ない人をあげてみた。
「確かに、葉山って帰ってきてんの?」
鈴木さんが久河さんに聞いた。
「ぜんぜん。前までは日越えたら、音あったりしてたけど。最近はほんとねぇな」
「心配ですね」
なにげなくそういって久河さんが僕を見て目を細める。
「久河さん、なにかしってるんですか?」
「なにも。でもブラックナイフの後輩たちはあんまりうまくいってないみたいよ」
学校内で間宮をみた。一人でふらふらと歩いていた。僕は授業中で向かいの棟をなんとなくながめていたら、間宮がゆうゆうと歩いていたのだ。出席が三分の二ないとふつう単位はもらえない。でもテストの点がよくて、最後にだされる課題をこなせばお情けであがれるそうだ。だからか、クラスには二三人さぼりの生徒がいるのはめずらしくない。そういう制度を作っちゃうからこうやって遊ぶ生徒がでてしまう。でも逆にテストさえがんばればサボってもいいととらえて勉強するようなやつもいる。間宮はテストの点はいいそうだ。中間テストの前に、依田が中等部のテスト上位者を見せてくれたことがあったけど、間宮はそれに乗っていた。まじめなのかなんなのかわからない。今だって制服で学校に着てる。
ゆらゆらと重心が定まっていないような歩き方でゆっくり歩いていた。親をなくした猫みたいだ。
間宮が見えなくなっても僕はずっとその廊下を見ていた。
間宮がぜんぜん帰ってこないので、どうにかしないといけない思いがつのる。ツレがいない系の不良の間宮は、学内に居所があるとは思えない。街まで降りてるって久河さんが言ってたけど、女の子には優しく声をかけて、とめてもらうようなかわいげもあるんだろうか。
「なさそうだよな」
それでもイケメンだからもしかしたら、かわいげなんてなくてもなんとかなるのだろうか。
「どうにかして、もう一回会いたいところだけど」
僕はベッドで寝れるようになったけど、こんなに気をもむのならずっとソファーでいい。
話し合ったって解決しないことはある。むしろ別れを決定打にすることだってある。でもあやふやなままじゃずっとしんどいままだ。
それに僕がかかわろうと決めたのだから。
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