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from依田  部活に寄って今日はすぐ帰るつもりだったのに、先輩に怒られて時間を食ってしまった。次のネタを頭の中でこねくり回してみるけど、うまくいかない。一人でとぼとぼと歩いていると、間宮を見つけた。今までどこにいたのか今から帰るようで靴箱にむかっている。  今日、そういえば、みなみと間宮の靴箱に手紙をいれに行った。まるでラブレターだと思ったけど、もう本当にそれしか手段がなかったんだと思う。  間宮なんてほっとけばいいのに、みなみはどうにか仲良くなろうとしてる。間宮と話してみせると意気込んでいた。間宮は中等部からの有名な不良でそんなやつと同室なんて俺なら絶対に嫌だ。でもみなみはさすが、兄が大不良、有名なチームの頭で逮捕までされた人間☆新見の弟ということで、嫌そうなそぶりはみせたことがない。彼は可愛い見た目どおり鈍感で、かわいい見た目とは反対にタフで強情だ。 「依田、今帰りー?」  後ろから肩をだかれてぶつかられた。 「いってー」 悪いと全然悪くなさそうにやってきたのは友人の横尾だった。 「今、帰り?」 「そうそう」 向かうのは靴箱なので、同じ方向に歩きだす。  靴箱で間宮が自分のクラスの方に曲がった。間宮が手紙を読むのか気になって一定の距離をとって追いかけた。横尾はそんな俺をたぶん新聞部のなにかしらと思ったようで、一緒に理由も聞かずに隠れてくれた。  間宮は自分の靴箱から靴を出して靴を履く。そして閉めるまでをスムーズにおこなった。 「えっ、あれっ?!」 間宮は手紙に気づかなかったのだろうか。いや、そんなはずはない。ノートを半分に折っただけのものだから大きいし、見失うはずがない。  手紙はどうなったのだろう、このまま行かせていいのだろうか。ぐるぐるとなやんでいたら横尾が様子がおかしい俺に気づいて声をかけた。 「どうした?」 「あいつ、みなみの同室なんだ。みなみ今日、手紙入れたはずなんだけど」 「そういえば、なんかやってたな。聞けばいいじゃん」  横尾はなんの気負いもなくそう言って、さっさと間宮を追いかけた。間宮はここ最近おとなしく、危ない話は聞かないけど、地雷があるらしくそこへの沸点はかなり低い。地雷が何かは知られていない。危険だ。でも横尾は危険なものへの躊躇がなくて、さらにおせっかいのなかなか正義の人なので言っても聞かない。 「ごめん、そこの人!」  横尾はあっという間に間宮に気さくに話しかけていた。  こういう時、事情を知る俺も出て行った方がいいのだけども、出そびれたため、物陰に隠れてしまった。おれは極端に暴力が怖いのだ!  振り返った間宮は一瞥すると無視して歩き出そうとする。 「ちょっと、待てって」  玄関をちょうど出たところで、横尾が距離を詰めて間宮の肩に触れた、そのとたん間宮は振り返り、思いっきり横尾のふとももを踏むようにけった。  けられた横尾は急な攻撃にも関わらずなんとか踏ん張った。  次の攻撃をしかけようとした間宮を前に横尾は両手をばっと上げる。 「ごめん。なんか触られるの嫌だった? 俺、なれなれしいってよく言われんだ。ごめんな。そんで、ようだけど、あんた、みなみ、新見美波の同室の人だよな」  なにごともなかったかのように横尾は早口でそう言った。けられたふとももは痛いはずなのに、横尾はまるで普通だった。前から思っていたけども、彼はたいがい頭がいかれてる。 「なんか、みなみ、あんたが帰ってこないって心配してるんだ。そんで、今日、あんたの靴箱に手紙を入れたらしいんだけど、見てない?」  間宮も自分が思いっきり蹴ったのに、なかったことにされた事実に呆然としてるのか、その場から逃げなかった。 「見てない。靴以外のなにも入っていなかった」  間宮は返事をした。 「だってよーー!」 横尾は振り返ってそう叫んだ。見つかってしまった。きゃーーっと、悲鳴を出したいところだけど、出ていきたくないけど、仕方ない。  そおっと柱から顔を出す。間宮は隠れていた俺をがんがんにらんでる。俺はそこからまったくうごけなくなってしまったので、そこから横尾に返事した。 「そんなことない。でかいから見逃すはずない。場所もちゃんとあってた」  横尾が困ったという顔をした。個々の靴箱はちゃんと戸があるから、故意に抜かない限りは絶対になくなることなんてないのだ。 「あんたのファンが持ち出したとかないの? 抜け駆け禁止みたいな。あんたかっこいいし」 「そしたら、俺はわかんねぇよ」 「確かにな」  間宮は意外にもどうやら話せるやつなようだ。さっき横尾が蹴られてたけど。それがなにか心理的なものがはたらいたのか、落ち着いていた。これならいけるかもしれない。 「いや、それはない。間宮のファンクラブは基本的に遠くから眺める、で接触はしない。しかも抜け駆けもできるもんならしてみろ精神で基本的にはOKだ」 おっかなびっくりしてでていった俺に、二人が胡乱げな顔で見た。 「なんか依田の情報網で、これだって理由ねぇの。自分の靴箱でものが入ってなくなってってそんなミステリーおこってたら間宮? もいやだろ」 「別に、どうでもいい」 ほんとうにどうでもいいのだろうけど、横尾のペースにまきこまれてしまった間宮は帰るに帰れなくなっていた。こんなに間宮という有名な人と話せるなんて、さっき横尾が出て行ったときはマジで泣きそうだったけど、いまとなってはぐっじょぶだ。 「うーーん。間宮関連は思いつかないな。基本、一匹オオカミだし。あの噂ももう沈静化したはずだし」  間宮がざっと足をひいた。ふと自分があの噂と口走ってたことに気づく。なぐられると思ったけど、間宮は帰ろうとしたみたいだ。 「あっ!」  ふと頭をよぎった。そうだ、間宮はなにもなくても、手紙を出したのが新見だ。 「みなみだ! 手紙を入れるとこ見られてたのかも! なんかブラックナイフが今、みなみに対して、動こうとしてるみたいな話、さっき部活できいた!」 「はぁーー?」 横尾は眉間にしわを寄せた。 「みなみ連絡先書いてたんだ! それを利用されたのかも」 「おまえ、それみなみに言ったか?」 「メッセージはいれたけど返事はまだ。でもみなみいつも返事おそいじゃん。今日は、まっすぐ寮に帰るって言ってたから。ハチノスまで帰れば平気じゃんか」  横尾はすぐさま電話を出してかけた。  嫌な時間が流れる。いらいらとコールをしたあと、電話を切った。 「俺、ちょっと、ハチノス見てくる。依田は情報とかに強そうな先輩に応援頼んで探して。ハチノスにいなかったら、風紀に連絡入れるから」  そう横尾が言い終わらないうちに、間宮がその場を抜けて歩き出した。横尾は初めてイラついた顔を見せたが走り出していってしまった。間宮はみなみのことを本当はどう思ってるんだろう。結局うやむやになってしまったが、間宮はTNGのメンバーだったと噂があった。TNGのメンバーはお互いの素性を言い合わないという掟があるから、仲間でさえメンバーがわからない。でも、リーダーの新見の素性は別だ。新見には弟がいるということもメンバーの中では有名な話だったそうだ。  とりあえず、部室にもどろう。不良関係や、学校の穴場に強い先輩がいるはずだ。無事にハチノスにいればいいのだけども。

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