17 / 50
5
とたん、僕は痛む体で走り出していた。
外に出てはみたもののどっちにいったのすらわからない。追いかけていった不良の人はどうしたんだろう。間宮は大丈夫なんだろうか。間宮がもし、どこかに引きづりこまれていたら大変だ。派手に追いかけっこをしていたら誰かしらが、風紀に連絡してくれるだろうけど、不良同士のけんかに処罰は薄いらしいから、今、助かっても間宮はこれからだいじょうぶなんだろうか。
間宮はどこにいったんだろう。どうして助けてくれたんだろう。もしかして手紙はちゃんとわたってたんだろうか。でも連絡がないから探してくれた?
ポケットの中を探した。携帯はありがたいことに入っている。起動もできた。着信履歴が三件、二件は横尾で一件は三宅さんだ。間宮からじゃなかった。
何の用事かわからないけど横尾にまず電話を掛けた。横尾はすぐにでる。
「みなみか! 今、どこ!? なにしてた?」
僕が話しかける前に横尾が勢いよく話した。彼が感情的になるのは珍しい。
「ちょっと……、横尾は何の用事?」
「何の用事? じゃねぇよ!! よかったーー。おまえ、いま、無事なんだな。なんかみなみが拉致られたんじゃないかって。なんもないならいいんだ」
「えっ!」
なぜか横尾は事情を知ってるらしい。僕の返事で何かを察した横尾は東の部屋に招集をかけた。
東は成績優秀者で個室をもらっている。なので、聞かれたくない話をするのは都合がいい。
部屋にはすでに横尾と、依田がいた。
「どうしたそれ」
横尾は玄関に立った僕を見て絶句してる。僕はどう見てもボロボロだった。シャツは破れているし、いたるところが泥だらけだ。
「ちょっと、拉致られちゃってさ」
気丈なふりで、笑顔を作ってみたけど、みんなの顔をみて僕は崩れ落ちてしまった。
横尾が僕を支えてくれた。
とりあえず服を脱がされて、手当をしてもらった。傷薬とばんそうこう、冷えピタなんかの医療グッズを東が管理室から借りてきた。東がてきぱきと処置してるところを見る。
脱がされて見た体のあざがひどくて、どこを触られても痛かった。よくここまで歩いたと思う。うずくまっていたからお腹や足が意外と大丈夫だけど、けられまくった背中がひどいそうだ。あと踏まれた手の皮膚がずるずるだ。
「とりあえずはこれで。折れてはなさそうだけど、一回病院に行った方がいいと思うよ?」
東は服を貸してくれて、どろどろの服をクリーニングにもっていった。
東はいないけど、やっとくつろげる雰囲気になる。
「何で横尾は拉致られたの知ってたの? 間宮が助けてくれたみたいなんだけど、なんか知ってる?」
「間宮が?」
「じゃあ、あのあと、間宮は間宮で探しに行ったのか」
横尾は依田と、自分たちが知った経緯を教えてくれた。横尾はハチノスまで行ってくれたようだ。風紀に依頼に行く途中で僕から連絡をもらったらしい。依田は先輩と一緒に学校内を探してくれていたようだ。
「ハチノスまで行ってくれたんだ」
「あぁ、なんかでも対応してくれた人がなかなか離してくれなくて焦った」
だれだろう。帰りが早いのは三宅さんと久河さんだけども横尾の反応が迷惑そうだから、たぶん久河さんだろう。
「で、間宮とは会わなかったの?」
「うん。手は外してくれたんだけど、自分で目隠し取ってたらいなくなってて」
「それで、よく間宮だってわかったな」
「声がして」
横尾はいぶかしげな眼をしたけど、僕はそ知らぬふりをする。
「誰にやられたか、心当たりは?」
横尾の問いに僕は顔を上に向けて考えるふりをする。
「さぁ……、たぶん兄の関係だろうけど、そんな人わんさかいるだろうから」
なんとなくうやむやにした。もう僕の中では終わったことだ。体は痛むけど、大事に至ってない。数日で治るだろう。間宮が早く見つけてくれて助かった。はやく間宮を探さないといけない。
気が散った僕は視線を依田に向けると、依田はなぜかおびえた顔をしていた。
「おまえをやったのは、ブラックナイフだそうだ」
横尾の不機嫌な声が僕に落ちる。僕は横尾を見た。ブラックナイフは葉山さんがぞくしていたチームの名前だ。葉山さんはどうしたんだろう。僕が倉庫に戻った時はもういなかった。
「みなみ、今、なに考えてる?」
「えっと」
不意の質問に答えられなかった。僕は嘘が苦手だ。
「気づいてたのに、嘘ついたな」
挙動不審な僕の言葉はすぐに見破られた。
横尾は僕の顔を見てそう言った。さっき拉致られた時よりもよほど心がひやりとした。
横尾の顔が見たことないぐらいけわしくなる。
「みなみ、ブラックナイフがやったて知ってて、かばってんな」
横尾は努めて冷静な声でそう言った。でもそうとう怒ってることがわかる。
「おまえ、馬鹿じゃねぇの。うやむやにするつもりだろう。何をかばってんだよ! もし、またやられたらどうすんだ」
「もうつかまらないよ。僕は普段、対策してるし。今日は騙されたから」
「次も騙されるかも知らねーだろ。このまま何もしないでほっとくのかよ」
「まぁ、たぶん、もうしてこないよ」
横尾から目をそらす。悪いことをした子供みたいだ。
「おまえが何もしなかったら、もし、ブラックナイフが来なくても、次は違うやつがくんぞ。すぐになめられるんだからな」
「でも、兄も悪かったから。みんなある意味では被害者だし」
「悪いことしてたのは、兄貴だろ。お前は関係ねーだろ。それに、ブラックナイフは不良なんだから、不良がやられるのがかわいそうって、なんだそれ。意味わかんねーわ。こんなケガして、お前これからも、そんな恨みひたすら買っては許すのか? マジで死ぬぞ」
「ヨコ…、そこらへんで」
横尾の切れように依田が引いている。
確かにそうかもしれない。全部兄がしたことだ。僕は関係ないといえば関係ないのかもしれない。でもそもそも夜の街に兄を出させてしまったのは誰だろう。
「僕は、兄のことを迷惑なんて思いたくないんだ」
「みなみが兄貴好きなのは、わかった。お前がどうしてもやったやつかばいたいなら俺らの出る幕はない。でも、心配したんだ。あんまりうかつなことすんなよ。誰かと出来るだけ一緒に行動しろ」
「わかった。ありがとう」
東が洗濯から帰ってきたようで扉が開いた。
「あれ、なんだかうれしそう?」
東は僕の顔をみてそう言った。依田と横尾が微妙な顔をする。僕は乾燥器までちゃんとかけてきてもらった制服を受け取った。
そうだ。こんなに怒られて、うれしい。いままで振り返ってみれば心配して怒ってくれたのは兄だけだった。兄にはじめて怒られた時、ぼくはとてもうれしかったことを思い出した。
ともだちにシェアしよう!