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今日のご飯は親子丼だった。とろりとした卵にぷるっとした鶏。ゆずの聞いたお吸い物にサラダがついてきてる。ここの食堂は少し割高なだけあっておいしい。いつもはダイニングのテーブルで食べるけど、今日は違った。自分の勉強机にごはんをおいて食べる。扉をはさんだ机にも同じものが並んでる。
間宮は意識をなくしてしまったので、三宅さんがベッドまで運んでくれた。汚れた服をぬがして、かるく体をみたらいくつか青タンがあったのでシップを貼った。大事には至ってはないようだ。
どれだけ走ったのかは知らないが、疲れもあったし、けがもあったのに、間宮は暴れた。
間宮はもしかしたら、何らかの恐怖症を持っているのかもしれない。それも結構強めのものだ。関節技を決めてるときの顔は痛いというよりも恐怖だった。触ったときに反応したから接触がいやなのかなと思ったけど、ハチノスで二回とも見たときは、なぜか上半身が裸だったから、そんな接触がいやな人がやたら脱ぎたがるだろうか?
布のすれる音がして振り向いた。
間宮が半分起き上がっている。目が合った。
「食べたら? 間宮の分、あるよ」
間宮はすっと立ち上がった。
俺を見ると罰が悪そうにして、顔をそむける。
だめかなと思った。間宮は部屋から出ようとして、横にたつ。
そうして扉を開けたとき、ぐうと、おなかが鳴る音がきこえた。部屋には親子丼のいい匂いが充満してる。
「食べたら?」
間宮はため息をついて、自分の机に座った。
もくもくとご飯を食べた。静かな食事ってひさしぶりだ。ここにきてからいつもみんなが話していた。
「うまいな」
でも二人でたべる静かな食事もきらいじゃない。ここにくるまでずっと兄とふたりで食べていた。
「間宮、助けてくれてありがと」
「別に、助けたんじゃなない。ぶらぶらしてたら倉庫の前の奴ともめただけだ」
間宮はがつがつとごはんを食べている。
間宮が僕が拉致られたことを知って、探したみたいだということは横尾からきいている。間宮の本心と行動はいったいなにを原動にしてるんだろう。
「それでも、いいんだ。お前にとったらケガまでして災難に巻き込まれただけかもしれないけど、本当に、ありがとう。助かった」
間宮は僕をまったく気にしていないように親子丼をかき込み続ける。
なので、僕も食を止めない。
「間宮の分の夕食は毎食あるからさ、食べに帰ってこいよ。寝る場所もここにあるのにさ。もったいないよ」
「俺が帰ってきてもおまえにいいことはないだろ」
間宮はあっと言う間に親子丼を食べ終えた。お吸い物をぐっといっきに飲む。
「でもせっかく同室なのに、さみしいじゃんか」
僕もようやく食べ終わる。食べ終わった食器は流しにもっていかなくては。まだ向こうでも食べてるだろうから、三宅さんが洗ってくれるだろう。
「そうだな」
間宮はしばらくしてそう口を開いた。
「なにか飲み物いる?」
「いらない」
立ち上がった。間宮の分も持っていこうか、と聞く前に、間宮ががたりと立ち上がる。
「どうしたの? いなよ。今日倒れんたんだから。あれだったら、僕、今日というか、これからリビングで寝ようか?」
三宅さんは許してくれるだろう。でも、間宮には僕の答えが正解じゃなかったようで、話す言葉も出ずに立ち尽くしてる。
「どうした?」
なにか間宮が話すとしたら聞かれてもまずいだろうと、さっき、間宮が明けて開きっぱなしだった扉を閉めようとノブに手をかけた。
「待て!」
言われたからそのまま一時停止する。
どこの部屋もやたら防音がきいてるから、リビングのきっとさわがしいだろう会話は聞こえなかった。
手に持ったノブにそっと力を入れたゆっくりと戸を引いてみる。間宮はその僕の手を絶望的な目で見ていた。
扉は全開を半開き程度までにして手を放した。明らかに間宮はホッとする。
「閉所恐怖症?」
言ってから、そんなことないと気づく。トイレだって行ってたし、だって間宮はいつも閉じこもってるのだから。
「閉所で、人といるのが駄目だ。だから、開けといてくれ」
半分あたりではんぶんはずれだ。間宮は観念したように、ぽつりとこぼした。本当は間宮は言いたくなかったんだろう。今、閉められたくないがために、そのプライドを折ったのだ。それにとても疲れていたのもあるかもしれない。
よわってる不良ががそこにはいた。
本当に申し訳ないという気持ちと、助けたいという気持ちがわいた。ほかにもなにかむずむずと心にこみ上げる感情があったのだけど、それはうまく言葉にできない。
「わかった。じゃあ、この扉はこれから閉めない」
僕はそう言って、自分の机の上に置いていたさしを手に取った。椅子を引いて、扉のうえの方に手を伸ばして、そこにさしをテープではりつける。これでもし閉めてしまっても扉が完全に締まることはない。
どうだと、思って振り向くと間宮はなにかまぶしいものを見るような顔で僕を見ていた。
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