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TNG、それは天才☆新見☆軍団の略で、兄の作ったチームだ。素性が分かってるのは総長の新見だけで、ほかの人はまったくわかってない。
「そうなんだ」
「TNGって、なんか、仮面とかしてたんだろ?」
横尾が依田に聞いた。
「仮面というか仮装で毎日ハロウィンみたいだったって話。みんなそれぞれあだ名があって、名札つけてたらしいね。新見なら、最凶☆人間☆新見。新見は人間だから仮装はなくてタスキがけだけしてたって話。副総長は、大いなる☆宇宙☆ほっしーで、星柄の服に星のグラサンかけてたはず」
「ふざけてんな」
横尾が即突っ込みを入れた。ふざけてる。まさにその通りだ。
「俺、一回みたことあるわ」
「まじで!」
東がふとそう言って、依田が飛びついた。
「俺は出身ここから近いから。そのTNGとか不良多い地域とはずれてるけど。なんかの用事で、繁華街に出たときの帰りかな、バスに乗ってて、横をバイクがいっぱい通りすぎて、そういえばここら辺暴走族多いって話だったと思って窓見たら、ほんとに仮装と、なんか、やたら電飾ついたバイクが続けざまに走ってて、暴走族なのか、なにかのおまつりなのかよくわからなかった」
聞いてるだけで恥ずかしいけど、僕は実際に見たことはない。外は危ないから夜にでたらだめが兄の当時一番よく言っていたこごとだった。ふざけてる。
兄は毎夜外に出ては遊びほうけてた。それに親はほんとうにいやな顔をしていた。僕たち兄弟は、親に好かれてはいなかったけど、あの時期だけは、親の僕に対するあたりは弱かった気がする。
「そんな仮装集団のなかで、なんで間宮が噂になったんだよ。誰が誰かわかんねーだろ」
横尾が依田に聞いて依田はすらすらと答えた。
「この学年で、目立つ一人の不良っていないじゃん。あんだけ堂々としてるならどっかに所属してるにちがいないみたいな感じになって。実際、街のチームに入ってるやつはいるし。でも探してもでてこなくて流れたんだけど。間宮が、D工業高校の築島と一緒にいる目撃があって、TNG解散してわかったんだけど、この築島が宇宙☆ほっしーだったんだよ」
「じゃあ、黒じゃん」
「そっ、黒ってことで、もめたけど、間宮と築島さんって家すごい近くなんだよ。それに間宮のお姉さんと築島さんが友達だって。だから全然関係ない知り合いだって間宮が言って、そもそも、TNGってメンバー同士も素性を知らないから、その理屈自体が間違ってるって話にもなって」
「あっ、そうか。でも、築島は間宮のこと知ってて誘った場合もあるじゃん」
「そうなんだけどさ。ほかにも疑わしいやつとかもいて、結局みんないちゃもん付け合って喧嘩して騒いで、気が晴れたのか、だれもこの件に関しては正解がわからないまま流れたんだ」
不良は単純だなって、横尾はあからさまにあきれた顔をした。
今の話を聞くと間宮は白だ。でもそれだと、間宮はなぜ、ぼくを助けたのかっていう疑問は解決されない。もし、メンバーだったとしても、僕はメンバーじゃないから、厳密には関係ないけど、兄に媚びを売ることはできる。
「築島さん? 素性われてる人もいるんだね」
東が不意に聞いた。ぼくはTNGのことを詳しく知らない。兄は語らなかったし、僕も聞こうとはしなかった。だけど、築島さんだけは知っていた。
ひとつ、TNGを嫌いな不良じゃなくて、TNGにも恨まれてることを僕は思い出す。毎月、ある日が近くなると僕はそれにさいなまれる。
「素性われてるのは築島さんだけだけどね。新見が捕まって解散するときに、誰もかれも正体がわからないんじゃ、仲間内の中で都合悪いみたいな話で、明かしたらしいよ。俺らの三個上だから今は高校卒業して事実上引退してる。専門学生やってるはず。繁華街の飲み屋でバイトしてるから会いに行けるよ」
「そいつはなんか、すげぇ悪かったりしないの。というか報復とか大丈夫なのか?」
「宇宙☆ほっしーはじめ、新見は上層部がめちゃくちゃつよかったことで有名だし、この築島さんはめちゃくちゃいい人だって話。復讐にいったひとはもれなく信者になって帰ってくる伝説をお持ち」
築島さんに僕は一度だけあったことがある。兄がつかまってから、僕の家に来た。そのとき、彼はぼろぼろだった。顔は全部腫れていたし、足も引きずってた。いくら強くて、いまは普通に暮らしてても、その時はたぶん復讐と報復がすごかったんだろう。
皮がむけて赤い手で、彼は、どうか面会にこれを着ていってくれないかと、Tシャツを僕に渡した。
僕は、そのTシャツをいまだに着れてない。
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