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 休みの日だった。間宮は部屋でごろごろしてる。ノーパソで映画を見てるみたいだ。  間宮はあれから帰ってくるようになった。でも会話はない。間宮はだいたいベッドに寝ころんで、上半身裸で、マンガとか小説をよんだり、ネットしてたりする。俺が閉め出されていたときもこんな感じで、特別なことはしてなかったんだろう。  間宮が閉所で人と閉じ込められることが無理だっていうのはわかった。なんていう恐怖症なんだろう。それって、生きていくうえで、ものすごくやっかいなことじゃないだろうか。いちおう扉を開けてればいいらしいけど、窓だけじゃ不安らしい。間宮はまったく語らない。でも、同じ部屋で過ごすようになって、彼が勉強しているところを見ると根は真面目なんじゃないかなと思う。彼は天才なわけじゃなく毎日ちゃんと勉強の時間をとってるようだ。勉強は嫌いじゃないけど、学校に行けない。それはみっしりと人間が部屋に閉じ込められてる教室にいることができないからだ。もし間宮が本当は普通な感覚の人間なら、あまりにも不憫だ。でも、本人に面と向かっていうとたぶん怒られる。  地味に始めた資格の勉強をやめて、休憩がてらリビングに行く。  リビングでは久河さんがすごろく的なテレビゲームをしていた。もう昼は回ってるけど、数時間前にここを通った時もしていた。電車を動かしてお金を増やしていくこのゲームは一年の形式で進んでいく。最初にゲーム内でゴールの年数を決められて、今の設定は最長99年で終わりは見えない。  久河さんは自分でゲームをするとき、とくにこの白鉄をするときは設定を鬼のようにいじくってとんだマゾげーにする。やたらビンボー神がでてくるし、倒産もまるさもはんぱない。だいたいみんな借金して、借金の額が少ない人が優勝する。三宅さんも僕もこのゲームの時はお誘いを拒否する。一回やってマジで懲りたのだ。 「それ楽しいですか?」  ちょうどその時、久河さんの電車が葉山さんの電車をぬきさった。でもふたりとも無言だ。 同じことをもう一回聞こうとしたら葉山さんのほうが口を開いた。 「こうやってさ、増えに増える借金みてるとなんか笑えてくるんだよな。もう手の施しようのなさに。しかも無駄に長い年数で設定してるから嘘のように終わんねえし。でも終わったときの脱力感がわすれなくなるんだ……」 葉山さんはあまりにもげんなりとしている。 「そう、この楽しさこそが愉悦」 ふふっと久河さんはいけない笑い方をした。  今日は久河さんは葉山さんを捕まえたようだ。  そう、葉山さん。葉山さんもあれから家に帰ってくるようになっていた。  久河さんいわくブッラクナイフはもう解散まじからしい。もともとまとめれる総長がいなくてぐだぐだだったところで葉山さんが抜けたので、散り散りになったようだ。元総長派は特に葉山さんが抜けてみんな抜けた。これから新しくまた小さいチームができるかもしれないけど、葉山さんは新たにどこかにいく気はないようだ。久河さんは完全にはみごにされたから、すごすごと家に帰ってきたと笑っていた。  葉山さんと久河さんはもともと顔見知りだったようで、学校の中では不良の世界はせまい。  葉山さんが魂が抜けそうな目をしてコントローラーを握っている。葉山さんと僕はまだどことなく冷戦状態であまり話したりしないのだけど、葉山さんが弱った顔を見せるほど、このゲームは過酷なんだろう。 「まだ、やってんのか……」 どこかにでかけてたらしい三宅さんが帰ってきた。部屋にはいるなりうんざりした顔をしてる。  葉山さんが小さな悲鳴を上げて、ゲームの中ではヘリコプターが大移動してる。 「今日、あちーなーー」 そう声がして今度は鈴木さんが入ってきた。 「うっわ、またマゾゲーやってんの。久河さんまじドМ」  入ってきたとたんゲームを見た鈴木さんはそう言って引いたけど、そこから久河さんにモーションをかけた。がばりとだきついてる。高校生の男子がああいう風にくっつくのってそんなに珍しいことじゃないと思う。実際、横尾はわりとああいうことをするタイプだ。なのに鈴木さんがするとどうしても18禁の雰囲気がただよう。鈴木さんはここに入ってから、問題を起こしてないという話だけど、本人に反省の色はない気がする。本当に誰でもすぐに口説きに当たって一向に懲りない。一見冗談のようだけど、あれは、冗談に見せた本気だと三宅さんは前に青い顔で言っていた。 「あっ、嵯峨崎さんじゃん。今、人口密度たけーね。みんなで、いいことする?」 久河さんに抱き着いたままの鈴木さんが顔を上げた。嵯峨崎さんがすっと眉根を寄せた。 「嵯峨崎さん、お菓子ですか?」 嵯峨崎さんは手に袋を持っていた。 「ちょっっ、しね」  久河さんの本気でおこった声が聞こえた。鈴木さんがなにかちょっかいをかけたんだろう。鈴木さんは二年だけど、学年なんて問答無用だ。さすがに、嵯峨崎さんには行かないみたいだけど、久河さんは見た目ひ弱だからセクハラを狙われがちだ。  見ないふりをして、嵯峨崎さんとキッチンに入った。 「うわ、おいしそう」  もう包装があいたお菓子をキッチンに雑に積んだ。これはあとで、とりやすい三宅さんが整理しといてくれる。嵯峨崎さんは最近、和菓子がブームのようで、大福や餅と、見た目にあざやかなねりきりがたくさんある。練りきりはいっこ一個がとてもきれいで、高そうだ。 「和菓子高そうですよね」 「たしかに、一個の単価は高い方だな。でも、今、新しい事業あたってるから」  そういって、繊細な作りの練りきりを嵯峨崎さんはつまんだ。  嵯峨崎さんはすでに自分の会社がある。嵯峨崎さんは成績も優秀でけんかも強いんだから、ハイスペックすぎる。  横に並んで、小さな大福をひとつつまんで食べた。控えめな甘さで、豆の風味が口に広がる。高い感じの味だ。  嵯峨崎さんは袋を逆さにしてふったら、お茶のコブクロが落ちた。和菓子に合わせてお茶も揃えて買う嵯峨崎さんはそつがないけど、キッチンは散らかった。それを特に気にせず嵯峨崎さんは部屋に戻った。  床に落ちたお茶の袋を取った。何倍分の茶葉なのかわからないけど、急須に入れる。  なんだかんだで、ここでの生活も慣れた。一学期も終わろうとしてる。ほかの人たちともそこそこに打ち解けて、みんなどんな人なのかなんとなくわかってきた。全員が全員仲良くはないけど、みんなここの人物と生活にはひとまず慣れて入ると思う。  間宮以外は。  一人だけ間宮が仲間外れにされたみたいでかわいそうだ。本人は絶対にそう思わないだろけど。  間宮がこの前、弱点を告白したとき、間宮を守らないと思った。いままで、間宮を恐怖にさらしたり、助けられたり、迷惑をかけた分、とりかえしたい。なのに、どうすればいいのか糸口がまったく見つからない。  間宮がなんで助けてくれたのかも聞けずにいる。最初に僕が嫌いだと言った理由も。僕が新見の弟だということに関係あるのか。どれも今のままじゃ教えてくれなさそうだ。

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