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 ここの学校の一つの特色は朝市だろう。学校と寮とは別に建つこの施設は、唯一のここの学生の遊び場で、たまり場だ。ここがあるから、学生は町までであるかない。だいたいのものはここで買いそろえられるし、通販の受け取りも可能だ。ジムやバッティングセンターみたいな遊び場もいろいろ揃ってる。  食堂は学校にも寮にも小さいものならあるけど、ここが一番大きく、そして金持ちの学校を象徴するような値段になっている。 「毎食、ここでは食べれねーわ」  今日は、いつもの友人で食堂に行こうと話していた。東が誕生日らしいので、そのお祝いということだった。東の分はみんなで割り勘のおごりだ。 「昼はリーズナブルなのもあるのに、夜はちょっと高いよね」 東はメニュー表を見て苦笑いだ。 「安くすますなら学校の弁当買うか、寮だな。俺は自炊だけど」  横尾は実家を半家出で出てきたそうで、あまりお金に余裕はないそうだ。東は奨学生なのでお金がない。 「依田は、いつもここのだろ? かねもちーー」 「横尾は自分で作ってうまいもん食べてんじゃん」 「まぁね」  横尾は料理ができるし、しかもうまい。 「みんな、うらやましい。みなみは夕飯はここの配達だよね?」  東はメニュー表をうらやむように見ている。夜に来るのは今日が初めてだと言っていた。お金がないのもそうだけど、そもそも夜はほとんど食べないそうだ。朝にたくさん男の料理的なものをつくって、朝昼それを食べてるらしい。食へのこだわりはあまりないのかもしれない。 「そう、日替わりA定職」 「名前は安いのにな」 「A定職が一番安いけど、それでも毎日だと結構な値段だよね」 「牛丼屋入れようぜ、牛丼屋」  口々に勝手なことを言っていると、手持ちのカードが鳴った。値段はいい値段でも、支給係はいない。いっこいっこつくるのに時間がかかるからできたらカードで呼び出される。 「リッチさがここなにもかも、微妙なんだよな」 「高校生が甘えるなってことでしょ」  依田と横尾がたちあがって取りに行く。 「誕生日祝ってもらえるとか、なんか悪いな」 横尾たちが去っていく背中を見て東はぽろりとこぼした。 「そんなこと言ったら、横尾怒るよ」 「そうだな」 東はちいさく笑みをこぼした。東は気さくで、勉強もできて優しい。とてもできた人間だけど、あまり人に深入りしていかない。それは悪いことじゃないけど、寂しい。 「あんまり、祝われたことない?」 「うちは貧乏だったしね。引っ越し多くて、友達もなかったから」 「あー、じゃあ、一緒だ。僕も引っ越ししたし、友達いなかった! 僕が友達いなかったのは性格が消極的だったからだけど」  一度祖父に預けられ、兄の高校進学で戻ってきた。別れる友達もできなかったけど、兄はどこでも人気者だった。 「俺も、消極的だよ。だから友達いなかった。引っ越し多いはいいわけだな。いっしょだ」 「嘘だ。東、いま、すげぇ人気者なのに? コミュ力カンストなのに?」 「なんだそれ。みんな、勉強教えてくれる都合のいいやつがほしいだけだよ。みなみも人気あるよ? かわいいって」 「そういうのはもとめてない!」  東は流したけど、そんなことないのに。みんなちゃんと東のこと慕ってる。でも僕は駄目だ。僕が一番最初にできた友達は横尾だった。ただでさえ噂があって、ここの学校のエスカレーター組は外部組にちょっと懐疑的だと学校が始まる前に三宅さんから聞いていた。だから、僕は同じ外部組で、陽気そうな横尾にしか、話しかけられなかった。東は横尾が連れてきてくれたし、依田も僕の兄がつってきたものだった。  話してるうちに依田と横尾が戻ってきた。二人とも両手にお盆をもってその上に料理をやまほど乗っけてる。いろんなものを注文してシェアすることにしていた。肉やパスタ、いろんなパンに見たことない料理もある。 「うわーー、いっぱい頼んだんだね」 「普段食わなさそうなやつとかも頼んでみた。和風のもんは俺がちょこちょこ作ってるから、洋風でいこうってことにして」 「朝市はフレンチがおすすめらしいよー」 机に並んだ料理はどれもおいしそうだった。湯気がふわふわとうきあがる。それにつれていい匂いが鼻から抜けた。 「おいしそーー」 「みなみいつもこんなんじゃないの?」 「A定食は名前の通り、和食と洋食が多いんだよね。肉じゃがとか、オムライスとか。。おいしいけど、見たことないやつとかはでない」 ほんとうにどれもこれもおいしいし、まったく文句はないけど、いかにも外食的な料理はやっぱりテンションが上がる。 二人とも席に着いた。 「東、誕生日おめでとう」 横尾に続いて、僕と依田でおめでとうを追う。 「ありがとう。すごくうれしいよ」 「では、料理が覚めるといけないので、いただきましょう」 ご飯をたべるときだけ、いつも横尾は改まって手をあわせるからそれにならう。横尾とご飯を食べるときは、みんな手を合わせる習慣があったなって思い出したみたいに合わせるからおもしろい。 いただきますと、手をあわせてご飯を食べ始めた。  料理はどれもおいしかった。前菜は生ハムのサラダと、よくわからないたくさんの種類のオードブルで、お芋のスープと赤い冷たいスープもある。メインはレアのステーキにビーフシチューのような煮込みの肉だ。魚のマリネとポワレもある。とりあえず全部二人前の量で頼んだけど、結構な量だ。  全体的によく料理名はわからなかったけど、依田が意外と詳しかったので、話を聞いた。マリネとポワレの単語も今日、初めて知った。 「あれ、間宮じゃないの」

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