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外は暗い。小高いから星がきれいだ。
車が一台通れるくらいに整備された道と歩道の横は柵があってその奥は、森だ。反対側は坂で、遠くの方に町の景色が見える。
横に並んで間宮を見上げた。身長差は10センチぐらいだろうか。平均より僕が少し低くて、間宮は少し高い。
「今帰り?」
「そうだけど」
呼びかけには無視した間宮だけど、横に歩き出した僕に観念したようだ。
「朝市で食べることにしたの? 今日のA定職はなんだった?」
「今日は、カツカレー」
「うわーー! こんな日に!」
カツカレーは人気メニューだ。なんだかんだで、世の中の男子高校生はみんなカツカレーが好きだと僕は確信してる。ここのカレーはちゃんと香辛料が聞いてておいしいし、カツも肉厚だからまずまちがいない。もちろん今日食べたメニューはとびっきり豪華でおいしかったけど、カツカレーを逃したのはまた別の話しだ。
「なに、お前、今日は食べてねぇの」
「うん。今日、友達の誕生にだったから、お祝いに朝市で食べたんだ」
「へぇーー」
興味ないだろうに、一応間宮は返事をしてくれた。
なだらかな坂道だから地味に上りはつらい。うっそうとした森があけると寮が見えてくる。短い時間だけど気まずくならずに話すことが出来た。
「間宮さ、僕と一緒に部屋にいるときあるじゃん。でも、ほとんどしゃべんないでしょ。まぁ、僕が部屋いるのって勉強するか、寝るときだけだから、全然それでいいんだけど。僕はもともと、いなかったことになるの得意だから、同じ部屋で一緒にいても、いないふりで過ごすのは大丈夫なんだ。でも」
寮はそこに見えている。いまは返事をしてくれてるけど、中に入ったら間宮が話してくれるかわからない。
「なに」
「ものすごく仲良くしたいとか、そういうわけじゃないんだ。個人個人の距離ってあるものだから。それに、勉強とか寝る邪魔とか、したくないし、してほしくない。でもせっかく同じ部屋だから話しかけるぐらいしてもいいかな?」
寮の手前で自然に立ち止まった。この時間に外を歩く人は少ないみたいで寮の明かりの前で広い空の下でふたり、投げ出されている。
「そんなに、話したいもんか?」
間宮はそう言った。ぶっきなぼうな物言いだから、間宮がどういう感情がこもってるのかわからない。いらだちのようでも、ただの疑問のようでもある。
「今まで、あんまり友達いなかったから、話せる人が増えるだけでもうれしいし、それに同じ部屋にいてもどっちもいないふりだとさみしいよ」
ぐるぐると話しながら、昔のことを思い出した。何でこんなにも僕は間宮と仲良くなろうとしてるんだろう。別に僕はリビングで生活しても構わないのに。
「間宮に助けてもらった上に、こんなこと言って迷惑だよな。ダメだらダメでいいんだ。さっきも行ったけど、勉強と寝るだけだし、僕はリビングでいくらでもいれるから」
「別に、たすけてねぇし、たまたまだし」
間宮はなによりも先にそこを否定した。僕が拉致られたのを知って体育館裏なんて人気のないところにいて、倉庫前の見張りも倒して倉庫を開けたのに、助けてないで通せると思ってるのが、不思議だ。
僕たちは二人とも黙り込んでしまって、風だけがふく。小高い場所だから、夜はいつだって涼しい。
「僕、親と仲良くなかったんだ。一回、祖父に預けられたんだけど、祖父とも仲良くなれなかった。だから、できるだけ、みんなから隠れて過ごしてた。そっと静かに。それが堅苦しかったんだ。だから、そっとするの本当は嫌なのかもしれない。得意でなれたことだけど、嫌なのかも」
さきに考えるよりも言葉が出た。言ってからそうだったと納得した。あたまがふわふわする。体の芯が熱い。
「でも、兄貴とは話したよ。ほかにだれもいないときはいつも部屋で二人で一緒にいた。それだけが幸せな時間だった」
なんでこんなにも言葉がするすると出るんだろう。からだは夜風に負けず熱くて、それがエネルギーだというように口だけ妙にさわやかにすべる。
「間宮ともそういう時間を作れるんじゃないかって思ってるんだ。ずっとおしゃべりするのが仲いいわけじゃないけど、壁は張りたくない」
間宮を見上げた。間宮は僕をじっと見ていた。
「閉め出したのは悪かった。その件に関しては、お前は全く悪くない。俺がただ、自分のつごうで追い出したんだ」
「うん」
感情的じゃない声だった。棒読みのような抑揚のない言葉だけど、だから誠実だと思った。
「俺はすぐに手が出るし、いい人じゃねぇ。うっとおしい奴は殴るけど、ずっと黙っとけとは言ってねぇ」
「わかった」
「あと、そんなに俺のこと気にしなくてもいい。少なくとも廊下ですれ違ったやつを片っ端からなぐるようなことはしねぇよ」
間宮はそういうとすっと歩き出した。それは横に並んでも大丈夫ということだろうか。寮に入ると夜闇になれた目に電気がまぶしい。
「間宮って、得意教科何? 今度、勉強教えてよ」
横に並んで見上げてみた。間宮はむすりとした顔で僕をにらむ。
「そんな気軽に話していいともいってねぇ」
早足でさっそうと歩く間宮を見送ったけど、僕は自然に顔がほころんでいた。
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