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続・仲良くなるには? 1

「間宮」  部屋に入る前に呼びかけて見た。返事はない。 そろっとのぞくと、呼びかけに応じたようで、顔を上げていた間宮と目があった。 間宮の眉間にしわが寄る。 「入っていい?」 いつもはそんなこと聞かないのに、間宮にお願いがある下心からか、思わず聞いてしまった。 「好きにすれば」 間宮は、もう興味もなくなったのか、パソコンに目をもどす。   僕は基本的に部屋にいるときは、机に向かっているときが多いのだけど、そこに座ってしまうと、ベッドにいる間宮には背を向けてしまうことになる。背をむけたまま会話をするような技術が僕になければ、そんなフレンドリーな間からでもないので、僕は思い切ってベッドの前にすわった。  気配を察知した間宮がまた、顔を上げる。パソコンの画面は意外にも7ちゃんねるだ。映画の話でもりあがってるみたいだった。 「それ、今やってる映画? おもしろいの?」 いきなり用事もやらしいかと、すこしジャブを入れてみる。 「アクションは派手だけど、内容はない。アクション好きか、映画をあんま見てないやつならおもしろいんじゃねぇの」 7ちゃんねるの住人はみんな酷評で、雰囲気は怒号というよりお通夜っぽい。 「間宮、映画好きなの?」 「別に。暇だから見てるだけ」 「僕さ、映画っていままでほんと見たことがないんだ。遠足のバスで見たとろろぐらい。おもしろいのあったら教えてよ。映画でも小説でも、マンガでもいいしさ」 「そこにあんの、勝手に見ろ」 間宮はクローゼットをさした。クローゼットは閉まってるけど、中は知っている。漫画と文庫本がたくさん入ってる。今まで、実は少し気になっていたけど、仲良くもないのに勝手に借りれなかった。 「えっ、ほんとに?」  間宮の本棚の本たちは題名は知ってるけど、内容は読んだことはない。  うれしいけど、そんな急に心を開かれても困る。そういう好きなものを人に教えるって意外と恥ずかしいんじゃないだろうか。それがみんなに人気の有名なおすすめものなら、そうでもないかもしれないけど、自分が普段使ってるクローゼットから勝手になんて、自分の主義志向がもろにばれてしまう。 「で、なんか用事?」 「えっ」 「さっきからずっとぎこちないぞ、お前」 「そんなことないよ」 「ある。で、」 「今度、友達と遊びに行くんだけど、間宮のかばん貸してほしいな? とか?」 かわいくおねだりしてみた。 「好きにすれば」 間宮はすぐにそう答えると、また7ちゃんねるに戻ってしまった。  任務はすぐに遂行だった。本を貸してるもらえる時点で行ける気はしていたけど、こんなにもあっさり行くとは。  間宮とは今は良好な関係を築けつつあった。間宮は恐怖症に触れなければいたって穏やかだ。愛想はまったくないし、気分が乗らなければ無視して、しつこかったら吠えるけど、見た目からしたら許容の範囲だ。普通に話しかける分にはなにも問題ない。適正な距離のとりかたもわかってきた。間宮自身は意外にパーソナルスペースは狭いほうだ。今みたいに近寄っても最初は顔をしかめても、そのままつい何らかの動画に一緒にはまってみてしまっても、追い払われることもない。自分の持ち物についても勝手に使われてても文句を言わない。ただし、僕の机に置いてる文房具なんかも勝手に使われる。  間宮との生活は悪くない。  クローゼットを開けた。来週、ゴールデンウィークに続いていつものメンバーと遊びに行く予定だけど、いつも使ってるかばんを朝市に行く坂で思いっきり転んでダメにしてしまって困っていたのだ。間宮のカーキのショルダーは機能的でかっこいい。かれは何気におしゃれだ。遊びに行ったらお礼にお土産を買ってこよう。  ついでに小説も一冊、借りた。まだ祖父の家に行く前は本が好きだった。読んだら感想を言い合おう。  よしっと心の中で言った。徐々に体の傷も消えている。これからの日常生活は順調への道をたどりそうだ。

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