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カバンのお礼にしおりを買った。薄い木でできたしおりはうまく挟むとチェスのキングのコマが上に出る。かっこいいと思ったけど、間宮はとくにありがたみもなく受け取った。男子高校生が喜ぶものって意外に難しいと思う。無難にお菓子や食べ物系でもよかったけど、間宮が何が好きで何が嫌いかまったくわからない。そういえば間宮はリビングにいまだ入ったことがないらしいから、リビングにお菓子がたくさんあるのを知らない。知ってても取りに行くことはないだろう。持ってきてあげてもいいけど、タイミング的に僕もお菓子を部屋で食べないから言いわすれ続けている。些細なことだけど、あんなおいしいお菓子をたべそこねてるなんて、ものすごい損だ。
そう思いながらフィナンシェをかじった。学校から帰ってすぐ、だいたいリビングでくつろいでいる。おおきいソファはいつもふかふかだ。
「みんなに、夏休みの予定を聞きたいんだけど」
嵯峨崎さんを呼んで来た三宅さんはそう言った。
そういえばもうすぐ夏休みが迫っている。期末もそろそろ勉強をしはじめないといけない。
「俺はすぐに帰る」
嵯峨崎さんはすぐに手を挙げた。続いて、鈴木さんも早めに帰ると続けて言った。
「帰らないけど、寮にもそんなにいねぇ」
「盆にはかえるかな?」
久河さんと葉山さんはそこそこ寮で過ごすみたいだ。
「みなみは?」
「たぶん、すぐ帰ると思います」
「残るのは久河と葉山か。七瀬は大学行くだろうから、帰らないけど、ここにもそんなに戻らないだろうな。気になるのは間宮か」
「間宮に聞いときましょうか?」
「お願い。急がないでいいけど、いつ帰るのか聞いといて。帰らないなら自分で俺にそう言いに来てって言ってほしい。夏休みのルールとかいろいろあるから」
「わかりました」
伝えることは簡単だけど、間宮が三宅さんに話しかけるのは条件がいる。それをうまいことするにはどうするのがいいんだろう。
ずっと僕たちの部屋の扉は半開きだ。閉ってたところも思い出せない。扉がもし、壁を愛してたならもう会うことない。かわいそうだ。最初は癖で閉めてもものさしをしならせていたけど、もう閉める癖ももうなくなってしまった。
「間宮ーー」
呼びかけてみたけど、返事はない。のぞくと間宮は寝転びながら教科書を読んでいた。賢いやつはいろいろと違うのだ。
俺に気づいた間宮はそのままの恰好で返事した。
「なに?」
「間宮さ、夏休みどうするの?」
「なんで?」
「三宅さんが、聞いてほしいって。食事とか、いろいろあるんじゃない? どうするか言いに来てって」
間宮は押し黙って考える。
「あーー、のこる予定だ。おまえは?」
「えっ」
普通に聞かれたお前は? に呆然とする。それでも、必死に自分を取り繕う。
「僕はすぐに帰るよ。外部の夏期講習いろいろ受けてるから」
未来の目標のために、いくつかの教室に申し込んでいる。すべて経営や株式だったり、すこし難しそうで、今から憂鬱だ。でも自分で申し込んだのでしかたない。
間宮は意外そうな顔をした。
「なに?」
なにか聞きたいことでもあるのだろうか。僕に興味を持ってもらえるのはうれしい。なんでも答える気でいたけど間宮の意識は教科書に戻ってしまった。
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