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 リビングは誰もいなかった。さっきまでいた三宅さんも不在だ。 「あれ、いないね。待つ?」 「部屋でまてばいいだろ」 「あっ、でもせっかくだからお菓子もってこ?」  廊下とリビングの戸はふだんしまってるけど、開けっ放しにしておいた。  間宮を引っ張ってキッチンまで移動する。その間に、ゲームとか、いつもご飯を食べてるダイニングの机とか、キッチンのあれこれを説明した。初めての場所でいちおう興味はあるのかだまって話を聞いている。 「で、ここのが持っていっていいお菓子」 ポットなんかが置いてる棚に籠がいくつもある。そこにはきれいにお菓子が並べられていた。嵯峨崎さんは箱で適当にここに置くけど、三宅さんがいつもきれいに整理してくれてる。  大量にある八つ橋といつもあるいろんな味のクッキーやチョコ、それにお茶の類。嵯峨崎さんが和菓子ブームだから今は緑茶が豊富だ。 「そのお菓子買ってる、嵯峨崎さんってあほなの?」 並べられた大量のお菓子の前で間宮は呆然とした。 「頭はいいらしいよ」  学年上位だという話だった。会社もあるから頭はいいはずだ。ものを自由に買っちゃうのはお坊ちゃんだからだろう。 「ふーん。どんなやつ」 「あっ、間宮見たことないのか。嵯峨崎さんはいつも真っ黒な服着て、顔も体もシュッしてきれいだよ。やくざの息子で、力がすごく強いんだって。でも普段はおっとりしてる。お金もってて、余裕ある感じ。なんていうか貴族風」 「やくざなのに?」 「自分はインテリの今どきのやくざだからって言ってた」  リビングにいるといろんな人となんだかんだで交流する。もう数か月たってるので、なおさらだ。でも間宮は本当にガラパゴス化しているようで、誰とも交流がなく過ごしてる。逆にすごい。 「間宮って、ハチノスで知ってる人いるの?」  さっきの皿に追加で、クッキーをいれた。そしたら、間宮も皿に追加で八つ橋をどんどん入れていった。 「久河と葉山、不良のやつの名前は知ってた。久河さん? の顔はまだ一致してねぇけど。あと、横の部屋のやつはすれ違ったことがある」 「鈴木さんだね」 「もう、二度と会いたくねぇな」  たぶんいろいろ誘われたんだろう。間宮はあからさまにげんなりとしている。間宮は顔は整ってるから鈴木さんも喜々としているのが目に浮かぶ。鈴木さんはアウトはないけど、男の好みは男っぽい色気のある、どちらかというと細身の中肉中背だそうだ。好みの相手はできなくても、反抗的に断られるのが楽しいから、積極的に誘うそうだ。間宮はたぶんどストライクに入っているだろう。 「会わないといいね」  皿がいっぱいになったので、コップを出した。緑茶を選んで急須にいれる。 「間宮も、お茶飲む?」 コップをもう一こだす。食器は誰のか決まってないので、自由に使っている。 「飲む」 「つめたいのでいい?」  コップに氷をいれて緑茶を注いだ。注ぎ終わったところで、これを持っていけないことに気づいた。皿をお盆にしたいけど、間宮が八つ橋を置きすぎたのでスペースがない。  どうしようかとおもっていたら、横から間宮がすっと二つのコップを持った。 「ありがと」 あまりの自然さにびっくりしたけど、お礼を言った。  間宮は自分でもっておいて驚いた風な顔をした。まるで手が勝手にうごいたって感じの反応だ。 「別に」 一言そういって間宮は顔をそらす。 「どうした」  変に固まってしまった間宮をのぞき込もうかとしたときに、リビングの方で音がした。誰か帰ってきたようだ。三宅さんならいいけどと振り返ると、そこにいたのは、久河さんだった。 「こんにちわ」 声をかけてみたけど、久河さんは僕の方を見ていない。 「あっれーー。間宮くんじゃん。リビングにいるなんてめずらしいね?」 「まぁ」 さっと入ってきた久河さんはこちらにどんどんと近づいて対面式のキッチンのでいりぐちをふさいだ。 「久河さんはキッチンに用事でした?」 「飲み物でものもうかなと、」 「じゃあ、僕たち、戻ります」  久河さんは話好きの構いたがりだ。間宮にいこうとするのを邪魔してキッチンを出ようとするのに、久河さんはぜんぜんどかない。 「戻るの? 今日はゲームしないの?」 「テスト前ですよ。勉強しないと」 「勉強なんてほどほどでいいよ。赤点さえ取らなければさ」  位置的に僕の後ろにいる間宮は一向に話さない。たぶん飲み物をもって突っ立ってるんだろうけど、平気なのだろうか。たぶん久河さんは間宮にとっての閉所における壁になってる。 「みなみちゃん真面目だねー。間宮も勉強?」 久河さんがそう言って後ろを見る。だから僕も一緒に振り返った。 「……」 無表情で間宮は立っていた。顔から生気が抜けている。

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