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「間宮……、大丈夫か?」 目だけがゆっくりと僕の問いかけに動く。大丈夫じゃないなと思った。 「久河さん、僕ら勉強しますんで、どいてもらえますか」 「みなみはどうぞ。間宮は置いてったよ。ここに来たからには久河総司の好奇心からは逃れららない」 久河さんはどこかでみたことある中二ポーズをとった。どく気はないらしい。 「間宮、こっちにくるきなかったじゃん。というか、今日初じゃない? それお茶? 飲むの? みなみにつれてこられたの?」 「まぁ」 間宮も返事しないことにはぬけれないと感じたのか、死にそうな声で返事した。たぶん、今まではこういう場面は力づくで逃げてきたんだろう。そうして間宮はどんどん孤高の存在になったわけだ。  ここで久河さんを殴って逃げることもできる。でも、問題になったら面倒だ。部屋にも帰ってこれなくなってしまうだろう。せっかく落ち着いたのだから我慢と間宮も思ってるのかもしれない。恐怖症さえなければ、間宮は見た目は不良でも、性格は引きこもり気味のインドア志向だ。 「すみません、とりあえず立ち話もなんですし、そっちに移りませんか」  間宮はやっとのことでそう言った。敬語を使えたことにびっくりした。  確かにキッチンは狭いけど、ダイニングとリビングまで出るとひろい。この広さに三人ぐらいだとなんとかなるのかもしれない。 「確かに、そうだね」 久河さんはそういって、僕の皿からクッキーを一個とると、どいてくれた。  ホッとして出ると、間宮も後ろをついてくる。  ふと、見ると久河さんは自分の部屋から来たのか、玄関側の扉は開いていた。これでさらに形成は好転した。間宮もまともでいられるだろう。 「さっきも聞いたけど間宮も勉強するの?」 「します。俺、成績いいっすよ」  さっきとはうってかわって間宮はどうどうと返事した。緊張した感じも溶けて、愛想はないけど、いくらかフレンドリーだ。 「そうだったっけ」 その変わりように、ふだんあまりおどろかない久河さんの目がわずかに広がる。  なんともいえない間が広がった。久河さんは僕に地味にアイコンタクトを図ってきたけど、目でこの状況の情報を伝えられるわけがない。 「あれ、間宮いるじゃん。めずらしい」 その時第三者が登場した。どこからか帰ってきた三宅さんはそう声を上げる。手に袋を持ってるから朝一にでも行ってたんだろう。 「そう。めずらしいよね」 久河さんがまず返事をしたけど、そんなことは気にならなかった。  三宅さんは陽気に部屋に入って扉を閉めた。 あっ、と僕は声を漏らした。その声よりも前に、間宮は動き出す。持っていたお茶は素早く、床に置いた。行きおいでこぼれたけど、そんなこと気にする前に、間宮はダッシュで部屋を抜けて言った。三宅さんはわけもわからずひきとめようとしたけど、そのわきをすばやくぬける。  一瞬のうちに間宮は外に出てしまった。 「ラグビーかよ」 呆然といった葉山さんの横を俺も通り抜けた。  かれの許容値を超えたようだ。  僕は苦笑いをしてとりあえずお菓子を持って部屋を出る。お茶はふたりにあげることにしよう。  外に出たのかなと思ったけど、間宮は部屋にいた。ベッドにふて寝してる。 「お菓子あるよ」  お皿を間宮の机に置いた。間宮の返事はない。  お菓子の皿は間宮の机の上に置いた。クッキーをティッシュにとって僕も席に着く。クッキーににっきの匂いがほんのりついていたけど、それはそれでおいしかった。  教科書を広げて勉強をする。 勉強は昔から嫌いじゃない。好きというわけじゃんかったけど、一日の予定とノルマを決めてそれをこなすという作業は好きだった。  英語のワークを数枚解いたところで後ろで物音がする。間宮が起き出してきた。  横に座ると、八つ橋を見てため息を吐いた。一個つまむと、席に座った。  読み込まれた資料集を手に取って、勉強の続きをした。  集中していたところで、自分の中のノルマにくぎりがついた。時計を見るともうすぐ夕飯の時間だ。横をみると間宮もまだ勉強をしている。資料集はさっきの世界史から、生物に変わっていた。  お皿の中の八つ橋はほぼない。 「間宮、夕飯は?」  声をかけてみると、間宮はすっと時計を探した。部屋にある壁掛け時計を見る。 「もう、こんな時間か」  間宮は立ち上がって伸びをした。勉強の道具を軽く片付けている。 「食堂行くの? 間宮も部屋で食べたらいいのに。ここで食べればいいじゃん」 「その方が、いろいろめんどくさいだろ」 「間宮、さ。なおそうとは思わないの?」 恐る恐る尋ねてみた。立ちあがった間宮は僕を強い目でぐっと見る。 「ほっとけ」  一つの八つ橋をのこして間宮は出て言った。

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