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 東の部屋で、横尾のふるまった食事をとって、依田を見送った。横尾と東は残るそうだけど、僕も明日には出る予定だから、いまがお別れの時だった。 「じゃあ、二学期」 と、手をふって部屋に戻った。  寮の中はあわただしい。大荷物を持った人が廊下のそこかしこでおしゃべりしてる。  部屋に戻るとハチノスの中も騒がしかった。三宅さんが数日したら帰るということで、部屋の中を大掃除してる。それに便乗してみんな各自の部屋を掃除してもらってるので、やたらリビングに人が集合していた。  リビングでお茶を飲んで団らんしてるのは嵯峨崎さんと久河さんと鈴木さんだ。キャラの濃い三年生相手に鈴木さんがくつろげるのは同じくらい濃いからだろう。 「二人とも、今日帰るんですか?」  今日帰る嵯峨崎さんと鈴木さんは多めの荷物を部屋の端に寄せていた。 「そうそう。俺は夕方出るけど、嵯峨崎さんは、もうすぐだよな?」 「ああ。これを飲んだらもう出る。みなみも帰るんだろう」 「僕は明日です」  コーヒーメーカにコーヒーがあったので、いれた。僕もリビングに一緒に座らせてもらう。いつも思うことだけど、みんな妙な威圧感がある。今にかぎってはめずらしく嵯峨崎さんもいるからオーラがすごい。 「新見兄には会いにいくのか?」  その嵯峨崎さんが僕をいるような目で話す。 「あぁ、なんか不良の?」  僕が答える前に、鈴木さんが相槌を入れた。鈴木さんは不良じゃないから、たぶん兄のことはあまりしらないんだろう。 「えぇ。会いに行きます」 「どんなやつなの? すげぇ強いって噂だけど、みなみちゃん、こんなかわいいのに? でも最初に葉山なげとばしてたっけ?」 「顔は割と似てます。でも背はぼくより高いです。平均ぐらいだと思いますけど。あと全体的に僕より締ってます」  よく似てると言われていた。僕たちはどちらも母似だ。 「新見って少年院だろ。一年ぐらいで出てくるはずだ。戻ってきたらどうする?」 「そうですね……。僕は、聞いてないです。でも、普通にバイトして、就職を探すと思います」  僕は兄と仲がいいと思ってるのに、兄の事を語れないのは歯がゆい。 「みなみの家の人ってどんなかんじなの?」  嵯峨崎さんの突っ込んだ質問に口が止まる。家の人は、良くない。濁して笑ってみた。 「そんなにきいてやるなよ」  僕があからさまに困ったのをみて鈴木さんが助け舟を出してくれた。でもこういう時は、この後決まってセクハラされるので、うれしいかは微妙だ。案の定、なぁ、と鈴木さんは僕の肩を抱こうと手を伸ばす。 「行くとこないなら、うちであずかれるよと思って」 その途中で、嵯峨崎さんがコーヒーを飲みながら言った。 「ははは」 その言葉のニュアンスは本気で、苦笑いしか出ない。鈴木さんにもいまいちリアクションをとれなくて、肩をだかれたままで、ここに座るのは失敗だった。 「俺、見たことあるよ、新見広海。めぼしい不良は物色しに街に降りてたから。すげぇほしかったんだけどな。人望あるし。情があって、明るいわりに冷静で。強くて、容赦がない。でも、ああいうリーダー気質の人望ある奴は、一回てひどい絶望見たら、あっという間に堕ちたりするし。院入れられて、勘当されて弱ってるなら、ひろったんだけど」 もはや苦笑いもできない。 「一個でも光があるとなかなかな。みなみ、兄貴裏切るつもりない? そしたらたぶん、すげぇ簡単につれると思うんだんだけど」 冗談のようで、本気の目をした嵯峨崎さんに僕は乾ききった笑いで返事した。

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