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取材は次の日に早速来た。寮の前で待ち伏せされていたので相当に目立っていたけど仕方ない。
「新見美波さん、少しお時間よろしいですか?」
取材に来たのは背が高くひょろりとした男だ。面識はない。
「何ですか?」
「少しお話を聞きたくて、夏休みにお兄様に会いに行ったとのことですが、その件について伺ってもよろしいでしょうか?」
男は笑顔を張り付けているが、背の高さからか威圧感がある。
「兄弟の話なので、お話しすることもないですが」
「いやまぁね、お兄様はうちでもご有名ですし、それに、後学のために、院の様子とか、面会の仕方なんかもね、聞かせていただければ、なんせめったにそんな話聞かないですし、うちには問題ある生徒も多いですから興味あるだろうと思いまして」
含み笑いで男は聞いた。たぶん先輩だろうけど、そんなこと関係なく腹立たしくなる。失礼な話だ。さも自分が正当なことを話しているかのように話し、僕たちをバカにしてる。
「ここは進学校ですし、そんな話必要ないと思いますけど。今は時間がないので、このへんで」
そう言って話を切った。ここで怒ったら相手の思うつぼだ。兄は院に入っているのは事実なのだけど、プライベートなことを話す必要はない。
「そうですか、それは残念」
男は蛇のように舌なめずりしたが、おっては来なかった。
人をいらだたせるのがうまい。たぶん人を怒らせて、言葉をとって悪い記事を書くことを得意としてるんだろう。もうこないでほしいけど、これで引き下がるだろうか。週刊天白はときおりとんでもなく粘着なことで有名だ。
学校に着くと一目散に依田が僕の元に来た。
「どうだった? 誰か来た?」
「背の高いオールバックの人」
「あっちゃー、織尾さんか、こっちにけんかうってんな」
依田は週刊天白が取材に来たということで、対抗の記事をのっけてくれると話してくれた。晴々新聞はゴシップネタはあまりやらないが、週刊天白への批判としての事実の記事はたびたび載る。
さっそく依田からインタビューを受ける。院に入った兄の面会に僕が行ったということ、兄は現在大変反省しているということ、院では更生に励んでるということ、兄弟の中はよく、弟は、学校でなにかするつもりは全くないということ。
依田はすらすらと大枠の記事を書いた。大きい記事にはしない。あまり大きいと逆に怪しいし目立つという話だった。発行日は晴々新聞、週刊天白ともに明日の木曜日だ。今の時点でたいして向こうの取材はないから、対抗はできるだろうとの話だった。
「ごめんな新見、これぐらいしかできなくて」
「十分だよ。それに依田は助けてくれてるだけで、問題があるのは僕なんだから、気にしないで」
週刊天白はどんな記事を書くのだろう。もし僕が兄貴にそそのかされて悪いことを考えてると書かれたとしたら、不良の人たちが僕を襲うのだろうか。兄への恨みはそこまで根深く、兄の息がかかった僕を痛めつけることで溜飲はさがるのか。
「まだ、記事はできてないし、もしかしたら全然何も起こらないかもしれない」
兄はもう助けてくれない。自分でなんとかしないといけない。
「俺は微力だけど、東も横尾も助けてくれると思うから、頼ってよ」
僕はいい友人を持った。
「うん、ありがと」
「寮に入ったら安全だと思うけど、一応、間宮にも話しといたら? 前に助けてくれたの間宮なんだろ?」
「間宮には話した」
間宮は助けるって行ってくれた。昨日の言葉を思い出す。
「どうした? なんかうれしそうだけど」
横尾と東が僕の席に来た。僕の顔を見て横尾が不思議そうに聞いた。
「何でもない」
なんだろうか。今は悩むべきなのに、間宮のことを思うと顔がにやけた。
昼休み、いつものように四人で昼食をとっていたら、朝の男が、ずかずかと教室に入ってくる。いきなり現れた上級生にほかの生徒が何事かと興味立てている。
男は依田をいちべつしてから僕に話しかけた。
「今、お時間いいですか」
「どれくらいですか?」
「少しで結構です」
どう対応するのがいいかわからないけど、あまりつっぱねるのもよくないだろう。
「少しなら」
「では、少しだけ。すみません、先ほどはお急ぎのようでしたので名乗れませんでした。私は新聞部で週刊天白を作ってる織尾と申します。お聞きしたいのはあなたのお兄さん、新見広海についてのことなのですが、面会ではどんな話を?」
「特に、変わったことは話してません。兄の近況を聞いたりしました」
「そうですか、たとえば?」
「今は、家具の部品? みたいなものを作ってると話していましたけど」
「お兄さんと仲はよろしいのですね」
「はい」
「あんなに恐ろしい男を? おや、失敬。でもうちの学校ではあなたのお兄さんはとても恐れられてるので」
織尾は気持ち悪いぐらい丁寧な敬語で話す。それがすごく嫌味に聞こえる。
「僕は、家で引きこもっていたので、兄がどれだけ恐れられていたのかは知りませんが、捕まっているので、悪かったんだと思います。家族として、申し訳ないと思います。兄は罪を悔い改めようとしています。僕と兄は、たった二人の兄弟ですから、助け合いたいと思っていますが」
「ありがとうございます。では、この件は、これで」
この件は? 織尾はそう言った。いやな予感がした。これ以外になにか僕が話せることなんてない。あるとしたら、この前の暴行だろうか、ずいぶん前のことだけど、僕は被害者だから探られて痛い腹はないはずだ。
依田を横目に見たけども、依田もなにも知らないみたいだ。
織尾は一枚の写真を出した。
「新見さんは、今、ハチノスにすんでるのですね? そのハチノスでは間宮悟と仲がいいようで」
出された写真は僕が間宮と横に並んでる写真だった。
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