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チーム結成 1
放課後まで僕はいつもと同じように過ごした。いつもより周りの人目が強かったり、ささやかれることも多かった気もするけど、大丈夫だ。
「みんなごめんね、こんなにしてもらって」
いつもいつも僕は迷惑をかけてばかりだ。
「気にすんなって」
横尾がまずそう言って、俺の頭をぐりぐりする。
「みなみはなにもしてないんだから、そのうちみんな忘れるだろ」
「俺は記事にできることもあるかもしれないから利はあるよ!」
東がぼくに笑いかけて、依田は親指をたてて横尾にたたかれていた。
「ありがと」
みんな僕に優しくて、僕はみんなに守られている。本当にありがたい。
今日、何度か間宮には連絡を送った。返事はない。間宮を守る人はいない。僕が守りたいけど、嫌がられるだけだ。どうしたらその権利がもらえるんだろう。こんな僕じゃ足手まといで間宮を守ることはできないだろうけど。
今日、帰ってきたら、もう一度話そう。間宮の恐怖症がなければ、ちゃんと学校に来て人通りが多いところで過ごせと言えるのに、家でただおとなしくしてるなんて僕だっていやだ。落ち着くまで、いっそストーカーでもしようかとも思ったけど、すぐに巻かれそうだ。ちゃんと対策を考えねば、間宮は大切な友人なのだから。
ハチノスに帰ってきた。間宮はまだいない。彼はその日によって帰宅時間がまちまちだから、いなくてもおかしくはない。そのまま夕飯を食堂で食べて帰ってくると遅い日もある。ただ、もう夜遅くまで出歩くことは少ない。物差しを扉に挟んでから朝帰りもない。
リビングに久河さんがいた。
「みなみちゃん、今日、載ってたね」
「はい」
さっそく久河さんに絡まれた。
「みなみちゃん顔に似合わず過激だね? まぁ、お兄ちゃんも顔は同じだけど」
「記事のことですか? 嘘に決まってるじゃないですか。兄は真面目に過ごしています。僕も企ててないですし」
「まぁ、うそだよね。みなみちゃん全然普通の子だもん」
久河さんは煽りについ過敏に返してしまったけど、久河さんは意に返さない。
「でも、みなみちゃんの話なんて誰も聞かないしさ。今、間宮いる?」
「いないです」
「間宮は記事のこと知ってるの?」
「言いましたけど、ばからしいって」
「それは、まずいね。なんかね、ブラックナイフ、ついに解体らしいんだわ。それで、ちっさいグループができて、めちゃくちゃもめてるから、ハクをつけるために、間宮狙われるかもって」
「えっ」
「解散してここが正念場だからね。ブラックナイフはもともと仲良しこよしじゃないから、それぞれが良い地位築けるように、無派閥とか、外部とかも巻き込んで、とりあえずもめてハク付けたいから、普通の一般生徒でもちょっと目立つとすぐやられちゃうかもしれない。普段から派手だからなにもなくても間宮は勧誘とか、喧嘩売られただろうけど、こんな記事出たんじゃ、不良にもてもてなんじゃない? 時期が悪かったね」
久河さんは他人事にそう話す。当たり前だ。他人なんだから。
「具体的に知ってることってありますか?」
「いや、おれも、もう引退してるし。でも、もとブラックナイフの中林が、とくにTNGのメンバーをつぶそうってやっきって話。何人かいる疑いあるやつ今日何件か囲まれたって話はあるね」
まだそんなに動きはないだろうなんて悠長なことを言ってる場合じゃなかった。そんな別角度から問題がでるなんて。
久川さんは携帯を眺めてる。
「間宮は、どうだろ。情報を聞いてないってことは、むしろ今、捕まってるかもしれない。発覚してないってことだから。あんな記事出たらみんな一目散で、狙われないなんてことはないはずだし」
「そんな」
前にけがをした間宮を思い出した。また俺のせいで間宮が傷ついてしまう。
「助けたい」
この前は俺が助けてらった。それだけじゃなくて、間宮には仮がいっぱいある。
間宮は俺の事を助けてくれたんだから、俺も間宮を助けないと。
「助けたいの?」
「はい」
久川さんは不敵に笑った。
「たぶんケガするよ? みなみちゃんはお兄ちゃんじゃないんだから。君はなにも持ってない」
その通りだ。でも、助けないと。
「手伝ってくれませんか?」
「しゃーない。かわいいみなみちゃんのためだからさ。ちょっとだけ手伝ってあげる。でも、貸しだよ? 新見弟の力を十分に使って、返してもらうから」
「僕ができることなら、返します」
「ちょっと手伝うだけで、みなみちゃんが使えるなら、いい買い物だ」
久河さんはとりあえず間宮の居場所と、各不良たちの動向を探ると部屋に入った。
ちょっと待っててと言われてリビングでなにもすることもなくうろうろする。間宮は本当に捕まっているだろうか。何度かしたメッセージも電話も、もともと間宮は返信が豆じゃないけど、返事がぜんぜんこない。
捕まってるとして、見つけてもらっても僕一人で行ったところでどうしようもない。なにか策を練らないと。横尾たちに連絡をいれてみたけど、彼らにもできることは少ない。横尾は体格はいいし、運動できるけど、だからって二人でも大勢相手には負けるだろう。
しばらくすると依田からも連絡が来て先輩に相談してくれた。それが事件につながるようならスクープとして記事になるから探ってくれるそうだ。ありがたい。
どうしようかと悩んでいると、三宅さんと葉山さんが部屋に入ってきた。葉山さんは僕を見ると気まずそうに部屋に入ろうとする。
「みなみ、どうしたんだ。変な顔して。あぁ、今日そういえば、記事のってったな」
「あっ、はい。あれはうそなんですけど、なんか、ちょっと、僕というより、間宮のほうに被害が生きそうで」
葉山さんは足を止めて俺を見た。
「間宮、いないのか」
「はい。いつもいないんですけど、今日はまだ、戻ってないみたいです」
葉山さんはなにか考えるようだ。
「うちのやつらか?」黙っていると、葉山さんはもう一度剣幕に繰り返した。「うちのやつらかって聞いてるんだよ」
「久河さんはたぶんそうじゃないかって、今調べてくれてます」
「もう間宮には手出さないって話したのにな」
「まだ決まったわけじゃないですけど」
「うちなら、中林だ。ここ何日か、目立つやつを片っ端から殴りに行ってる。それも、一人を狙って大勢で。結局あいつは、リンチしたいだけなんだ。むなくそ悪い。どエス野郎が」
葉山さんは憎々しげに額を寄せた。ブラックナイフはやっぱり仲良くないらしい。
久河さんが部屋から出てきた。
「もとブラナイの中林率いるやつらが朝市脇を金髪の生徒連れて歩いてたって情報あったよ。ビンゴじゃね?」
「まじか」
状況を飲み込んだ三宅さんは声を上げた。
「どうする?」
「助けに行きます」
僕は葉山さんに目を合わせた。
「葉山さん一緒に来てくれませんか?」
「はっ? 無理に決まってんだろ」
「葉山さんは約束破るようなやつも、リンチするようなやつも嫌いって言ってました。中林さん、ぶっ飛ばすチャンスですよ」
「だからって人助けみたいな真似したくねーし」
「でも、中林さん嫌いなんですよね。こんな機会もう来ないですよ」
早口でまくし立てた。葉山さんは粗暴だけど、仲間と自分たちのルールは守る古いタイプの不良だ。同じグループだった中林が嫌いでも仲間を殴る機会はなかったはずだ。
間宮がとらわれている。急がないといけないけど、このままじゃ戦力がない。
「無理」
「お願いします」
「言ってあげれば? ここで中林つぶせば、箔ついて、けんか吹っ掛けられることも少なくなるじゃん。葉山、けんかはもうめんどいって言ってたじゃん。最後の卒業にさ」
葉山さんは久河さんを胡乱げに見る。
「あんあたやけに乗り気だな」
「久しぶりにこういうの楽しくて仕方がないんだ。というか、さっき元ブラナイの高津に連絡したよ。最後の祭りだって。葉山も行くってもう行っちゃったし」
「はぁ?」
「人が、ほしいんなら、俺も行くわ」
その流れを見てると三宅さんに声をかけられた。
「えっ、いいんですか」
三宅さんは確か体を壊してスポーツ特退を外れた。
「それぐらいなら大丈夫だよ。柔道特待なめんな」
僕の言いたいことをさっして三宅さんはウインクした。
「ありがたいですけど、なんで」
「ここでやって来れたのは美波のおかげだって思ってる。葉山が帰ってきたのも、間宮が帰ってきたのも美波のおかげだ。なんとなくみんなが和んでるのも、お前が誰に臆することもなく笑ってくれてるからだ。おれだけならもっとギスギスしてたし、嫌になってたと思う。だから、恩、帰させてくれ」
「そんなこと」
「そんなことあるよ」
久河さんと葉山さんが話し終えたようで、結局、葉山さんは参加することになった。久河さん先にブラックナイフ元総長派の人に話を着けて、もう現場に行かせていて、元総長派のナンバー2だった葉山さんは行かないわけにはいかなくなった。
電話とパソコンをにらめっこし、朝市の第三倉庫があやしいまで目星をつけて、場所と中林の状態をはなす。
「第三倉庫は朝市から徒歩5分ほど、一番遠い倉庫だ。主に、ホームセンターや、ジムの出し入れの少ない備品を入れてる。広さは教室ほどで、中林の他にメンバーがいると思う。半分くらいは見張りとかで出てるはず。まず、新見におとりとして突っ込んでもらう」
「はい」
緊張する。それでもやらなけらば行けない。
「誰かが来た、それも新見なら見逃さないはずだ。騒ぎになる。その混乱で元ブラナイの一味を投入かな。で、わーわーなると思うけど、頑張って。俺は第三倉庫の裏に窓があるから木に登って中の様子見つつ、間宮を探す。場所がわかれば奪還できそうなタイミングで三宅と葉山に連絡入れるから、葉山は中林をなんとかして、三宅は紛れて間宮がたぶんうごけない状態だろうから連れ帰ってきて」
「抱えることはできるけど、中林の他にもいるんじゃないの?」
「外の状況によっては、元ブラナイの人に一緒に入ってもらうけど、しんどいと思う。ちょっと戦力が足りない。ただ、着くまでに戦力のあてがあるからそれを投入する」
「わかった」
三宅さんがうなづいた。これで準備は整った。
「それでいい?」
「はい」
玄関でそろっていくと不自然だからと別れて出た。一人で朝市に向かう。
間宮が捕まったと聞いた時は、あんなに絶望したのに、今も不安だけど、仲間がいる。間宮を助けてくれる。感謝してもしきれない。
よかった。あとは助けるだけだ。とにかく無事でいてほしい。
待ち合わせ場所に向かって歩いてると、携帯が鳴った。びっくりして束の間手が震えたけど、相手は久河さんだった。なにか不備があったんだろうか。
「もしもし」
「ごめんね。戦力のあてが美波と話したいって」
久河さんはすぐに電話を替わった。
「もしもし」
「てつだってあげようか?」
聞きなれた声だった。穏やかだけどしっかりした声。嵯峨崎さんだ。
「お願いします」
「やくざに物を頼むと、後が怖いよ? これは、交渉だけど、お兄さんを僕に紹介しれくれたら手伝ってあげる」
久河さんは今のままじゃしんどいと話した。負けるということは、僕だけじゃなくて、久河さんにも葉山さんにも三宅さんにも元ブラナイのひと、全員を負傷させることになる。
「わかりました」
「いいの? おにいさん、不良になっちゃうよ?」
「なりません。兄は断ります」
断る。断らせる。僕もTNGもいる。だから大丈夫だ。
「じゃあ、意味ないね」
「意味なかったら、手伝ってくれないんですか?」
怖い人だとわかっているのに恨み節が声に出る。やってしまったと後悔したけど、聞こえたのは笑い声だった。
「いいよ。でも、俺、お兄ちゃん本気でほしいと思ってるから、君のほうに穴があったら、君をぶったたくよ。君の精神がぽっきりおきるようなことがあれば、新見は俺の誘いに乗るかもしれないし」
「ならないです」
僕が折れることはない。どんなことになっても、兄だけは譲らない。それに、今の僕には僕が折れないように支えてくれる人が、こんなにいた。
「かわいくないね」
電話が切れた。
弱い僕のままでも、みんなが助けてくれた。弱いままの僕でも兄を助けられるかもしれない。僕は兄を迎えに行く。そう決めた。僕のために、築島さんのために、そして間宮のために。きっと、間宮を助けれたら、僕は胸をはって兄に会いに行けるそんな気がした。
だから、間宮無事でいてくれ。
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