47 / 50

2

 各々が位置に着いたと連絡が入った。倉庫前には見張りが数人いて、ぎりぎり見えない位置に、僕と葉山さんと元ブラナイが隠れている。三宅さんと嵯峨崎さんは万が一見つからないように、遠くに潜んでる。 「中林たちは体がでかいやつ多くて、無茶なケンカするが、力が強いわけでも、型があるわけでもねぇ。あまりかしこくねぇ戦い方だ。ブラックナイフは人数で押すことが多いから、個々でそんなにえげついやつはいない。俺が強いほうだったのも、力じゃなくて、特攻できる足の速さだった。だから、流すのとかできたら、しのぐぐらいはやれんじゃねえの」  確かに僕は入寮当初、葉山さんを投げた。流す技というのは一通り教えてもらってる。たくさんの人相手にも有効なものもたくさん教えてもらったけど、実戦経験はない。 「不安です」 「好きにしてろよ。別にお前が何もしなくても最終的に、嵯峨崎が倒すだろ。俺らは俺らで中林がむかつくから勝手にするし」  作戦なんてあってないものだ。それでも、久河さんからの連絡があれば決行する。  息をのむのも緊張する中、携帯が震えた。久河さんだと携帯を見たら間宮からだった。 「もしもし」 「あんたが、新見の弟?」  出たのは知らない男だ。 「そうですけど、誰ですか?」 「君のことが嫌いな男だよ。あんた、お兄ちゃんの復讐をしようとしてるんだって?」 「しません。兄は誰も恨んでいませんし、もちろん僕も。これ、間宮の携帯ですよね? あなた誰ですか? なんのようですか!?」 「間宮はいま、ここで寝てるよ。こいつと一緒に、新しくチーム旗揚げするつもりなんだろ? その前につぶさないとさ」 「だから、そんなことしません! 間宮は無事なんですか?」 「別に本とかどうかはどうでもいいんだよ。 俺らがつぶしたっていう事実がほしいわけ。で、間宮だけど、ここにいるよ。助けたいの?」 「助けたいです」 「じゃあ、一人でおいで」 「間宮は本当にそこにいるんですね」 「いるよ」 ガサゴソと音がした。なにかもめてる音と複数人の乱暴な声がする。 「くんな」 低い声が聞こえた。間宮だ。 「来ないと間宮、ひどいことになるから。朝市の第三倉庫に一人で来ること。もちろん誰にも言うなよ」 電話はいきなり切れた。くんな、なんて、行かないはずがない。間宮はいつもそうだ。  携帯で久河さんに電話をかけた。 「間宮捕まってます。一人で来いって言われました」 「そっか、こっちまだ、準備できてないけど、なんとかなるでしょ。作戦決行だ」  久河さんは軽く言った。あまりにも軽く言われたのが、逆に力になる。怖くない。間宮に会いに行くだけだ。 「僕、行く」 葉山さんを振り返った。バシッと背中を叩かれて、そのまま走り出した。  すぐそこにいたので、走って、すぐに見つかった。出入口の手前でたむろしていたやつが、慌てて襲い掛かってくるのを、そのまま投げた。勢いよく直線に来る人間は何とかなる。  まさか見るからに弱そうな男が喧嘩できるとは思わなかったのか、ひるんだ男たちは、一瞬だけ硬直したけど、次々に突進してきた。それを、ひたすらよけて投げる。僕はたいして力がないから、これしかできないけど、聞いていた通り、力技で攻撃してくる人ばっかりで意外と、対抗できた。たくさんの怒号が飛び交う中、出入り口が開いた。出てきた大柄の奴にちょうどよく突っ込んできた男を、投げて体当たりさせた。 「いってーな、誰だ」  大柄の男は吠えて、それにつられたのか、中から男が出てくる。何人いるのか、大所帯だ。  足が疲れて気を抜いたら、横から男に突進されてこけた。 「いがいと、やるね? さすが弟」 中から出てきた長髪の男が俺を見下げる。こいつが中林だ。  被虐的な目を向けられて、ヤバいと不安がよぎったところで、後ろからも男たちが出てくる。 「中林! 遊びに来たぜ」  楽しそうな青年の声がたくさん聞こえる。 「ひゃっはーー」  誰だか知らないけど、突進してきた男が奇声を上げて俺をこかした男を殴りとばした。  あっという間に元ブラナイも、中林一派もいりみだれて、乱闘になる。 「お前らよえーなーーー!!」  全然乗り気じゃなかったのに、葉山さんは笑いながら、周りを蹴散らしていく。もともと僕が目当てのはずだけど、因縁の対決だ、みんな目先の敵しか見えておらず、僕はそっとそこから這い出して、倉庫の中に入った。  外で起きた騒ぎに、ほとんどの奴が出ていって中はがらがらだった。  倉庫にはきれいに荷物が積んであり、見通しが良かった。ちょっと歩くだけで見渡せ、誰もいなかった。  間宮はいない。そもそもの作戦は久河さんが中の様子を見て、嵯峨崎さんと三宅さんが奪還の手はずだけど、何の連絡もない。どうするべきか。 「やってくれたな」  外の喧騒の中、一人男が入ってくる。中林だ。 「そっちが悪いんじゃないですか」 「一人で来いって、言ったのに、間宮はどうなってもいいのか?」 「一人で来て、仲良く殴られるなら、助かる可能性が高い方にかけます」  一対一では分が悪い。僕は襲ってこられる分に、護身はできるけど、自分からではきっと負ける。それに僕が人を投げるぐらいはできることがばれたから、警戒されているだろう。 「いまから、お前は殴られるんだから、なら、おとなしくしてた方が半殺しですんだのに」 後ろから二人の男が来た。僕は取り押さえられた。 「間宮はどこに行ったんですか?」 みぞおちに一撃食らった。 「どこでもいいだろ」 「間宮はどこだ」 「いまごろ、仲間になぶられてるんじゃねえかな。間宮とそんなに仲良いとはますます怪しい。それに葉山とも仲良くなっちゃって、これは本当にTNG再建かな? よき友情だね」 「うるさい。兄は関係ない。僕が誰となかよくなろうが、勝手だ。兄とは関係なく、僕が、間宮と仲良くなりたかったんだ」  最悪だ。また間宮が危険な目に合う。僕のせいで。間宮は兄の弟の僕を守ろうとしてくれてるだけなのに。

ともだちにシェアしよう!