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エピローグ 1
翌週またしても、間宮は捕まったことでニュースになったけど、旧ブラックナイフは崩壊し、新しく二つほどのチームができ、学内の不良は落ち着いた。ほかのゴシップも次から次へとでてきて、数週間たった今は僕の周りも平穏になっていた。
「これ、主人公が最初っから言えばよかったのに」
「ストーリーは穴があるって前評判だしな」
部屋でのんびりくつろいでいた。間宮が映画を見ていて、それを僕も横で見る。もう定規はとってしまって部屋は閉じれるようになっていた。そのことを久河さんにはやじられたけど、それももう、ずいぶん前だ。
ノートパソコンは小さくて、間宮が布団に寝転んでみてるから僕は横にクッションをもって座ってみてる。
「あっ、ごめん」
今見てるのはアクションシーンで派手なシーンが見えづらくて自然と体が乗り出していた。肩が触れてしまって、慌てて飛びのく。
「ん」
間宮は気にしてないようで、画面をむいたままだ。だから僕も気にしてない風で画面をみた。
触れた肩に血がどくどくする。こんなことよくあるのに、そのたびにどきどきした。
好きだって自覚したとき、僕はそれが、どういう好きなのか把握できてなかった。友愛の延長のきもしたけど、頭にさわりたいって思ったのも事実だ。でも時間がたつたびに、これは、恋愛だって気持ちが膨らむ。触れるとドキドキする。横尾は割合とスキンシップ過多だから、肩を抱いたりとかするけど、そんな時こんな気持ちにはならない。ぼーっとするような、麻痺が頭にたまる。前までは気にしてなかった半裸の姿も、いや、実はちょっと腹筋触りたいとか思ってたけど、今は意識してしまう。ぐっと抱きしめてほしいし、抱きしめたいって不埒なことを考えてしまう。男性相手に、肉欲が顔をだしてる。もともと性欲は薄いほうだと思ってた。二次性徴も遅くて声がわりだって学校で最後で、腋毛だってまだ生えてない。というか腋毛に至っては兄も生えてないから、そういう家系なんだろう。
ともかく、これはだめだ。このままでいたら間違いがおこってしまう。
なによりダメなのは、間宮が裸族のままで、僕の頭をなでたり、故意に足を踏んでみたり、することだろう。一回ベッドに並んで見たらって言われたけど、断った。無理だ。
間宮の思いがつかめない。告白まがいのことはしたけど、僕がどれほどの気持ちで言ったのか僕自身もわかってなかったし、間宮も嫌いじゃないって中途半端な答えだった。
もう一度、告白すべきなんだろうか。あやふやなものじゃなくて、付き合いたいって、それには恋人っぽいことも含まれるよって。ひかれないだろうか。今のままの少しのイチャイチャでも満足はしてる。日々楽しい。でも先に進みたい気持ちもある。
ふわふわしたまま、映画を見終えた。
「B級」
「わかる」
ふわふわのあたまを悟られないように、さりげなく離れようとすると手をつかまれた。
「なに?」
間宮は俺を見上げてる。間宮の目は俺の心臓を射抜きに来てる。
「今度、いつ兄貴のとこ行くの?」
「兄?」
カレンダーを見た。そういえば、もうそろそろまえの訪問から一か月だ。そろそろ電話を入れないといけない。
「次の日曜かな?」
「俺もついてっていい?」
「いいけど会えないよ?」
「いい」
「じゃあ、築島さんにも会いに行こうよ。会いたいって言ってたよ」
名案だと思った。僕もまた会いたかったし、築島さんと会うことで間宮の面白い話も聞けるかもしれない。
「そんな時間あるか?」
確かに築島さんのところにお邪魔したら当日に帰ることはできないだろう。
「じゃあ、外泊届けだして、僕の家とまる?」
どうせ親は帰らないし、なにも気にしなくていい。
「なら、そうする」
さっそく外泊届を出そうと、僕は寮母さんのもとへ行く。そこではっと気が付いた。仮にも好きな人を自宅に泊まらせて大丈夫だろうか。
当日はあっという間に来た。二人そろって家を出て、バスにのって電車に乗り換える。間宮は面会中の間は待って貰った。
「お待たせ」
「兄貴、元気だった?」
「うん。元気。今坊主で、頭焼けて痛いとか。……待ってるってちゃんといった」
本当はむやみに期待を持たせる言葉を話すのはダメなはずだけど、兄は今のところ模範的で、来年の夏には出所の予定だからか、注意も受けなかった。
「そうか」
この前まで不安だったのに、今は、大丈夫だと思う。僕がそう思わないといけない。
「大丈夫。ちゃんともどってくる」
電車に乗ってそのまま築島さんを訪ねた。今日は仕事をお休みして、店に予約をとってくれてる。
尋ねると、笑顔で席に通してくれた。
「今日は、おごりだから、いっぱい食べな」
「ありがとうございます」
僕の横で間宮は頭を下げた。
「久しぶりだな。ガリベン」
築島さんは笑顔で間宮にそう言った。
「その名前、というか、おれ、別に、TNGとか」
真宮は歯切れ悪く舌打ちをした。
「何キャラだよ」
「僕の前では、絶対に認めてくれないんです」
「そういうことか。お前は、本当にかわいいな」
築島さんは無理やり真宮の頭を撫でて、真宮は露骨に嫌がって築島さんの腕を振り払った。
「いいじゃん、ここは。この店だけは言いたいこと言えよ。こいつガリベン☆チューボーってなまえだったんだよ」
「ネーミングセンスサイアクですね」
前からなんとなく分かってたことだけど兄のセンスはひどい。
「だから嫌なんだよ」
「中学生で、俺らがよく溜まってた公園のベンチでいつも教科書開いてたから。ガリベンの割にはヤンキーがきても、物怖じしないし、ガンつけるから、面白れぇって。鉢巻とギャグみたいにでかいぐりぐり眼鏡を新見が持ってきて、誘ってんだよ」
「正気の沙汰じゃないですね、どっちも」
「うるせぇ」
「こういうかわいくないのに、すぐに免許とって、父親のバイク載ってきたからな。別にタンデムでのせてやるのに。かわいいだろ」
すごくほほえましい。世間的には悪なんだろうけど、青春だなと思う。教室に入れなかった新見にとってはTNGは居場所だったんだろう。そんな楽しい過去を作った兄以上に間宮に好かれることなんてあるんだろうか。
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