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ghost7

  それからはいつもと変わらない日常が戻ってきた。体験をしていた時のように、電化製品が壊れることもなく、体調も良好で、友人たちも何ごともなかったように木村の周りに集まり出した。  彼岸花という店に行ったことさえ夢の中の出来事だったのではないか、と思うほどに、平和で生温い日常。反対に今いる現実が夢の中かもしれないと思うこともある。  それは、以前と違うことがあったせいだ。あれだけ木村の傍にいた芥川と話すことがめっきり減った。休み時間や放課後には必ず早々と教室を出ていき、呼び止める間もなく廊下の向こうに消える。  そのうえ、元々強面だと恐れられる顔立ちが険しくしかめられていることで、ますます誰も寄り付かない。思い返すと芥川には友人が少ないような気がした。それは見た目にも原因はあるが、納得のいくものではない。  木村と接する時の芥川は、不器用だが優しい人柄が滲み出ている。単に人嫌いだったら、本当に常に一人でいたがるはずだが、木村にまとわりつかれても嫌な顔一つしなかった。  そんな芥川が遠ざかっていくようで、木村の中で寂しさばかりが募った。それは他の友人では埋められない穴だと思い、木村はもっと粘り強く芥川に接触を試みることにする。 「芥川!」  休み時間になって出ていこうとする芥川を声を張り上げて呼ぶ。クラスメイトから何事かと注目されたが、気に止めないで何度か呼ぶ。  聞こえていないはずはないのだが、芥川は無視をしてそのまま背を向けた。急いで後を追いかけていくと、足を早めて逃げていく。木村に気づいているに違いなかった。  ほとんど走るような速度になると、教師の怒声が響いたが、構わなかった。そして転がるように廊下を駆けていくと、誰かがふざけて水でも撒いたのだろうか、水浸しになっている地点に差し掛かり、滑って転びそうになる。 「わっ」  咄嗟に受け身の体勢になりながらたたらを踏むと、前方から腕を引っ張られた。 「えっ、ちょっと」  それではますます転んでしまう、と思いながら瞬時に目をつぶると、予想していたような衝撃の代わりに温かいものに抱き止められていた。自分より遥かにがっしりとした体格に包まれると、憧憬と説明のつかない情動が突き上げかけ、抑え込んだ。  そして、とどめにこの間の口付けが蘇ったので、飛び退って芥川から離れた。 「悪い、助かった」  視線を彷徨かせながら言うと、芥川の低い声が降ってくる。 「何の用」  答えようとして、視線を集めていることに気が付き、口ごもる。咄嗟にトイレが目に入ったので、今度は自分から芥川の腕を引っ張った。 「こっち」  それだけ言って、強引に芥川をトイレに連れ込む。幸い誰もいなかった。 「お前、最近何か変だぞ」 「そうか?」  睨むように芥川の目を真っ直ぐ見たが、視線を逸らされた。あくまでもしらを切るつもりの芥川に、苛立ちを募らせかけて、冷静に息を整える。こういう場合、熱くなればなるほど状況は悪化するだけだ。  そして、考えを巡らせて俯いた拍子に芥川の拳が目に飛び込んでくる。震えている。その手を、芥川は隠すように後ろに回した。  それで十分だった。 「俺に隠していることがあるだろ」 「……」  一瞬、芥川の顔に動揺が浮かぶ。そこを突いて、木村はすがるように口走った。 「無理に言わせるのはよくないことだと思う。だけど、お前が困っているのなら、俺は力になりたいんだ」 「……」  芥川の目が、木村を捉える。本気で驚いたような色をして。しかし、木村が言葉を続けると、それは変化した。 「俺たち、友達だろ」  冷えきった目付きになったのを見て、木村は自分が何かやらかしたことに気が付くが、遅かった。 「芥川……っん……!」  この間と同じように目にも止まらぬ早さで捕らえられて、ぶつかるように口付けられる。間近にある芥川の獣を思わせる瞳の奥には、苛立ちとともに確かな情欲の炎が燃えていた。 「ん、……っん、やめ」  押し退けようと足掻いたが、腕力で芥川には叶わない。汗ばんだ首筋に触れられ、シャツの裾を抜き取られたかと思うと、臍の辺りをぐるりと撫でられる。むず痒さに鳥肌が立った。 「芥川、まっ……」  制止の声を上げた時、芥川の背後から他の生徒の足音が近付いてくるのを聞いた。流石に離れるだろうと思ったが、芥川はそのまま木村の腕を掴み、個室に入るときっちり鍵を閉める。 「何を……っん……」  キスだけで終わらない気配を感じて焦るが、芥川は及び腰になる木村を抱き寄せて、息をつく暇も与えない濃厚なやり方で翻弄した。舌先をつついて、吸い尽くすだけでは飽き足らず、根本や上顎、歯茎まで侵略していく。  そして巧みに動くのは舌だけではなかった。荒々しくも丁寧に動く指先がベルトを外し、力を無くしたようにするりとズボンを床に落とす。   個室の外で男子生徒の笑い声がした。 「お前の小さいな」 「ひでえ。お前こそ、まだ毛が生え揃ってねえのかよ」  そんな内容の下らないやり取りでさえ、木村の羞恥を煽る。やがて彼等が出ていく頃には、芥川の手の中に自分のものが収まっていた。 「やめろ、芥川」 「『友達』でもこういう冗談はやるだろう」  それに反射的に反論しかけて、唇を噛む。「だけど、お前の触り方はしつこいじゃないか」  それは、芥川が怖いDVDを見ているときに、木村のそれを弄ってきた時の記憶だ。しかしあれは、無意識のうちの行動であったことに違いなかった。そうでなければいけない。  そんなことを考えているうちに、芥川は手を動かした。微かに反応を示していたそれが、擦られる度に否応なく成長していく。 「……っ、ん」  手の甲を唇に押し当て、声を抑えていたが、強引に外されると、再び唇を塞がれる。先の方をぐるりと指で撫でられながら、口の中も同様に擽られて犯されている気分になった。 「こんな、キスは、友達同士はやらない」  息を乱しながら言い募ると、芥川は鋭い眼光を散らせて首筋に噛み付いてきた。 「いっつ……」  痛みに呻くと、今度は動物的に舐められ、勝手に背筋が戦いてしまう。 「首が弱いのか」 「答えに、なってねえよ……っひ、やめ」  執拗に首筋を舐め回され、吸われたり噛まれたりしながら、仕上げに鎖骨のところを吸い上げられると、びくりと自分のものが反り返るのを感じた。 「友達と思っているのはお前だけだ」   耳に息を吹き込むように告げられて、絶望で頭の中が白くなる。しかしもう一方では、友達でもない自分にこんな仕打ちをする理由を考えて、胸が騒がしくなってきた。 「芥川、お前……っ」  いっそう扱きに激しさが増して、先の方からとろとろと先走りが溢れてくる。それを全体にまぶすように広げながら、芥川は欲望に支配された顔で唇を舐める。どう見ても芥川自信も勃起していた。 「木村の考えている通りだ。俺は」   再び耳元に寄せられて、その先をはっきりと伝えられた。 「木村が好きだ」  それに反応するようなタイミングで、木村の精が弾ける。まるで好きだという言葉に対し、自分もそうだと返したような恥ずかしさを感じた。 「芥川、俺は……っ、え、ちょっと何してっ……」  芥川は木村が焦って暴れるのを抑え込み、木村の双臀に指を滑らせた。揉むように動かされていると、奥が疼いてくるような気がする。 「待って、芥川っ……くっ……」  べたついた節の太い指先が奥に潜り込んで、窄まりを撫でたかと思うと、そのまま押し込んで侵入してきた。  異物感とそれとは違う何かを感じて喘いでいると、少しずつ深く入ってきた指が中で蠢いた。円を描いたり上下に動かされながら、前も反応してびくびくと跳ねている。  それを見た芥川は嬉しそうに笑い、片手で器用に自分のベルトを外しかけて、突然その手が止まった。 「芥川……?」  残念なような安堵したような振り子のように、どっち付かずに揺らめいていたところで、芥川の荒い息遣いを聞いた。  単に興奮して出た風ではない、過呼吸のような危うげな呼吸音だ。 「おい、芥川、芥川!」  必死に呼び掛けるが、芥川はそのまま木村にもたれ掛かるようにして、掠れた声で囁く。 「だい、じょうぶ……」 「何が大丈夫だよ、おい、しっかりしろ」  ふっと力を失い、倒れかかってくる芥川の背中を擦りながら、無我夢中で名前を呼び続ける。  その時、間の抜けたチャイムが鳴った。

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