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ghost9
「いらっしゃいませ」
冷気とともにふっと靄が立ち上ると、蜃気楼のように体を揺らめかせてその男が現れた。この店主が普通ではないと初めから分かっていたが、何も知らないふりを貫くのは容易ではなかった。
レンタルゴーストの店主がそもそも幽霊じみた存在だと知ったら、木村はどういう反応をするだろうか。なぜ霊感のないはずの木村に見えているのか分からないが、芥川は木村もまた普通ではないと知っていた。
「今日はお一人なんですね」
「ああ。あいつに危害が及んだら困るからな」
「だから、わざと木村様を店から遠ざけたんですね。本当は幽霊が怖いのではなく、憎んでいるというのに、今まで嘘を貫いてきた」
「……」
単に観察眼が優れているのか、あるいは他人の思考回路を読む妙な力を秘めているのか。この店主ならば、何でもありな気がした。
否定するのも面倒なので、正直に答えることにした。この店主は口は軽くないだろう。
「そうだ。俺はあいつさえ無事ならそれでいい。本当は、あいつが幽霊に固執する理由も知っている。いや、正確にはあいつではなく、『あいつの力』か」
「おやおや、あなたも大層な力をお持ちではないですか。もっとも、悪い方にばかり働いているようですが」
「……」
店主が言う力は、芥川の有り余った霊感のことだろう。悪い方とは、過去に関わっている。
芥川の両親の死の原因は、木村に言った通り当時のレンタルゴーストにもあるが、芥川自信にもある。もともと霊感が強すぎるせいで霊を呼び寄せやすかった芥川は、霊に取り憑かれたりして、怪我や病気が絶えなかった。
その影響か、気が触れて死にかけたことがあり、流石に心配した両親がどうにかしようと利用したのがレンタルゴーストだった。しかし、あのような結果を招くとは誰が予想できたただろう。
「あなたほどではありませんが、生と死に別たれる辛さは私も知っています。生者と死者は、本来は関われないものです。いえ、関わってはいけません。彼岸と此岸が交われば、均衡が崩れてしまう」
店主は覆い隠したマントの下で、悲しそうにしている、そんな気がした。
「この店の経営者が言う言葉ではないな」
「そうですね。私にも事情というものがありますから」
芥川は店主を見つめて、本題を口にした。
「頼みがあるんだ。ある霊を探しているんだが、見つけ出すことは可能だろうか」
「ええ、不可能ではないとは思いますが、しかしあなたの身の安全は保証できませんよ」
「それでいいんだ。あいつが見つかりさえすれば」
「では、ひとまず体験というかたちでご利用ください。ただ、体験は一度しかご利用いただけないので、二回目からは有料になりますが、そこはご容赦ください」
「じゃあ、一番知識が豊富なやつを頼む」
そうして、芥川はレンタルゴーストを利用したのだった。
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