11 / 15
ghost10
芥川は固持したが、とても外ではできる話ではなかったので、木村の部屋に来てもらって、落ち着いたところで全てを聞いた。
「何だよ。お前は俺に嘘ついてばかりじゃないか」
木村は怒るというよりも、 ふて腐れながら言った。事情が事情だけに言えなかったのだろうから、強くは出られない。
「ごめん。お前を巻き込みたくなかった」
「それこそ、水臭いな。でも、なんで急に話す気になったんだ」
「それは……っく……」
言い淀んだ芥川が、突然呻き声を上げる。
「芥川?おい、まさか例の発作か」
心配して駆け寄ると、苦悶の表情を浮かべていた芥川が、徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「良かった。やっぱりお前、病院にーー」
「その必要はねえよ」
「芥川?」
突如として声の調子が変わり、表情も別人のように変わった。唇を歪めて、悪巧みをしている顔つきだ。こんな芥川は見たことがない。
「お前、誰だ。芥川じゃないな」
「何だよ。話をちゃんと聞いてねえのか、お前。俺様はこいつが今利用しているサービスの霊ってやつだ。ついでに、以前お前についてたのも俺様。『強くて怖く、知識も豊富』だからな」
得意気に鼻唄でも歌いそうな調子で話す芥川、もとい、「強くて怖く、知識も豊富な」霊。タクトという名前だったか。
「なんか芥川の顔で喋られると変な感じだ」
「とか言いながら、お前何だよ。爛々とした目つきで近付くな」
「とか言いながら、タクトも何か顔赤いぞ。照れてるのか」
「は?ああ、体は芥川だからな。条件反射というやつだ。気にすんな」
そういうものだろうか。近付いてつついてしまいたいほど、好奇心が抑えられない。
「やめろ、近付くな。お前、綺麗な気を纏っているが、ちっと俺様には強すぎんだよ。引っ込めろ」
「何それ。俺ってなんかすごいの?」
木村が輝くような笑顔で尋ねると、タクトは呆れたように言う。
「自覚なしで、聞かされていねえんだな。お前は霊感ないとか勘違いしているようだが、それはお前がそういう悪いものを寄せ付けず、払う力を持っているからだ。ご立派な守護霊様をつけてな」
初めて聞かされる自分のことに、驚きが隠せない。芥川はそれを知っていたのだろうか。
「脱線したから本題に戻すぜ。俺様が芥川に力を貸して、見つけ出してやることにしたんだ。芥川の両親を食らったやつを」
「え、何それ。殺したんじゃなくて、食らう?」
ただ殺されるよりも恐ろしいことだ。身震いしていると、タクトは低い声を出した。
「詳細はこいつに聞いてくれ。ただ、お前の力とこいつの力を合わせれば、あるいは可能かもしれねえな。じゃあな」
「えっ、ちょっと」
タクトはそれだけ言うと、目を閉じて眠るように体を傾けた。後ろにテーブルの角があったので、慌てて手前に引っ張り、抱き締めるように受け止める。
高い体温を感じて、勝手に心臓が跳ねた。
「……木村……?」
「あ、気が付いた?」
放心状態の芥川を至近距離から見て、ようやく本人が戻ってきたことを知る。幽霊様もいいが、やはり中身は芥川の方がいい。
にこりと笑うと、芥川は頬を赤らめて視線を彷徨かせたが、やがてぶつかりそうな距離で訊いてきた。
「あいつ、何か言ってたみたいだな」
「ああ。なんか俺の力とか、俺たちの力を合わせたら倒せるとか」
「そうか……木村」
「ん?」
真面目な話をしながら、芥川の腕が背中に回されていく。自分も腕を回していたので、抱き合うようなかたちになっている。気が付くとじわじわと顔に熱が集中してきたが、離れようとは思わなかった。
「真面目な話を続ける前に、キスしていいか」
「いつも勝手にするだろ」
芥川は低く笑い、始めは触れ合わせるだけのものを繰り返し、やがて木村の中を探っていった。木村は呼吸を荒くしながら、自分たちは当たり前のようにこういうことをしているだけで、もうただの友達ではないなと思った。
芥川と唾液を絡ませてもつれ合い、床に転がりながら、互いの体の熱が高まっていくのを感じる。このまま身を任せたいような誘惑があったが、芥川が木村の服に手をかけたところで止めた。
「続きは後にしよう」
芥川は不満気にしながら、嬉しそうにした。
「してもいいんだな」
「……いいから、後でな」
照れ臭くてぞんざいに答えると、一瞬だけ二人して笑ったが、次には芥川も木村も顔を引き締めた。
「芥川、話を聞かせてくれるか」
「ああ、昔話をしよう」
ともだちにシェアしよう!