「え……？」 　友一が、良太の視線の先を見ると、見慣れたブルーグレーの車が職員用の駐車場から出てくるところだった。 　二人がいる渡り廊下からは職員用の駐車場と駐輪場がよく見えるのだ。 　車の運転席には剣上がいて、その隣の、いつもは友一が座る助手席に見知らぬ女性が座っていた。 　友一の胸が不快に騒ぐ。 　先生、どうして……？ 　そこはオレの場所じゃないか。なのにどうしてそんな女が座ってるんだよ？ 　女性は確かに美人だった。清楚な雰囲気の、それでいて大人の女の色気も充分に感じさせる、友一の一番嫌いなタイプだった。 　友一は唇を噛みしめた。 　剣上を信じてはいる。二人は心も体も一つになれる唯一無二の存在だったし、ある重大な秘密を共有もしていた。 　それでも人間というのは厄介なもので、完全に不安がなくなることはありえない。 　友一と剣上が男同士だということも、悔しいが、不安というパズルのピースだった。 　風が心地いい日だったので、車の窓は開け放たれ、聞きたくもないのに剣上と女性の笑い声が友一の耳に届く。 　……ずいぶん楽しそうじゃん、先生。 　もうそれ以上、その光景を見ていたくなかったので、その場から立ち去ろうとしたとき、剣上の声が聞こえた。 「……住所を言っていただければ、ナビに設定しますから」 　……え？ 　視線を車に戻す友一。 　カーナビの電源が入っていた。 「ありがとうございます。。それじゃお言葉に甘えて。新弥刀市……」 　女性が言うとおりに剣上が器用にカーナビを操作していた。