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「でっけーな」  横尾は思わずつぶやいた。  食堂は朝市と呼ばれる学校とは別の総合施設の中にあった。体育館2個ぐらいの大きさだ。それでもほとんどが埋まっている。一つのテーブルは使われても椅子は多くが開いているので、相席ならすぐにすわれそうだ。 「何、食べる?」  新見は入寮が早くて幾度か来たことがあるらしい。かってがわからない横尾は後ろについて回った。  食堂は普通に食券を買って並ぶというオーソドックスなものになっている。現金も使えるけどカードキーにクレジットがついてるのでそれもつかえる。並んでいる生徒はほぼカードキーで買っているみたいだ。この学校では現金を持ち歩かない主義のおぼっちゃまが多い。そう思いながら横尾もカードキーを出す。こんな秘境ででかい敷地なのに学校内のATMが少ない上に遠いからしかたない。  メニューはカレーとか丼ものもあるけれど、中華フレンチイタリアンなんかもあってどれもおいしそうだった。値段はやっぱりお高めだ。たまの贅沢として食べにくるぐらいちょうどに思える。  新見はたらこスパゲティで横尾はカツ丼を頼んだ。  ちょうどカツがなかったようであがるのを待っていたら時間がかかった。新見を捜すと知らな男と相席している。 「ごめん。待たせた」  横尾がいすを引くと相席の男が会釈する。黒髪、黒縁メガネでいかにもまじめそうな男だ。焼魚定食の鯖の骨がきれいにとられている。 「同じクラスの東凌(あずましのぐ)だ。俺も外部なんだ。よろしく」  メガネの男は横尾にそう言った。  東は見た目よりも柔和で砕けているようだ。笑うと以外に癒し系の顔をしている。 「よろしく。横尾仁志だ」  横尾も軽く会釈した。 「横尾くん! 俺さっき依田が言ってたみたいにヨコってよんでいい?」  横尾が東に自己紹介していると、くいぎみに新見が入ってきた。新見はきらきらした目をしている。横尾は近くの机のいかつい漢が新見のことをちらちらみていることに気づいた。ほんとうに新見はこれからさきこの学校でやっていけるのだろうか。  「どうぞ」 その心配は口に出さずに横尾は返事した。 「それがあだ名なの?」 東が訪ねた。 「別に、さっきの依田ってやつが勝手に呼んだだけ」  横尾はカツを口にほおばる。卵がトロトロ出し肉は厚くておいしい。高いだけはある。 「僕、あだ名で呼ぶのあこがれてて、東君はないの?」 「俺はあんまりあだ名とかつきやすい名前じゃないし。……あっ、でも新見はかわいい名前だよね。ミナミちゃん? ってよぼうか?」 東が笑いながら言った。 「それは恥ずかしいから止めて!」   新見は怒った顔もかわいく批判した。

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