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ところ変わって

「おい、美藤! 今日計画表提出日だぞ」  扉を叩く大きな音が聞こえた。その声に美藤由樹は起き上がる。美藤は自分の部屋に帰ってきたのは昨日の夕方で、それからついさっきまでずっと研究計画を書いていた。だから寝たのもついさっきだ。とてつもなく眠いが、なりやまないノックの音に鍵だけ開けて、ベッドに再びなだれ込んだ。 「瞬間移動かよ……。おまえ計画表、今日提出だろ。ちゃんと書いてんの?」  入ってきた藤原虎太郎はすぐに寝入る美藤にため息を吐いた。美藤は顔は上げずに手だけをあげて机の上を指さす。つっきっぱなしでスクリーンセイバーが作動しているパソコンの横で一組の紙の束があった。 「おお、優秀。おまえ昨日まで泊まりだったんだろ。教授が今日は休んどけって。これは俺が持っていってやるけど、高校のカリキュラムの手続きは自分でしとけよ」  美藤はほとんどうなっているだけの礼を言った。藤原はもう一度ため息をつき紙を持つとさっさと部屋を出ていった。  美藤は高校からのいわゆる外部生だ。そして今年から、七組特別総合コースにクラス替えの手続きをした。七組は一芸に秀でているものが主に在籍する。半数は成績優秀者で付属の大学からのスカウトで高校の授業免除のかわりに大学へ学びにいく生徒だが、会社を運営しているとか芸能人とかなんでもありだ。単位は、最低の授業数と、課題、高等学校の教員か付属大学の複数の教授の判でもらえることになっている。 美藤は去年、大学の教授で高校にも授業に来ている物理の先生と懇意になり、大学にも顔を出すようになっていた。そこで先生、今のゼミの教授のすすめで転クラスの運びになったのだ。 大学に行くと高校の授業は本当に最低限ですむが、ゼミの雑用として使われまくるからしんどさでいうとこっちが大勝する。それでも興味あることではあるから美藤は転クラスしてよかったと思っていた。  美藤が二度寝から覚めると、もう日は高いようだった。どれぐらい寝たのだろうか。なんとか起きあがって顔だけ洗う。久しぶりに制服をきて、学校にむかった。  どうやら学校は休み時間で人が多い。あどけない顔が多いのは一年生がはいって来たからだろう。  歩いてると多くの目線が集中した。美藤は自分の顔を冷たい上にきつく怖い部類だと思っているが、どうやら顔がいいらしいと最近分かった。去年は派手だった髪が落ち着いたからか、大学に行く機会が多くたまにしか高校に現れないからか、視線が不躾になった。昔から周りにはこわいと言われていたので実感はわかない。でも一人だけやたら容姿をほめてくれるやつはいた。  そこでその一人のことを思い出す。二年になって忙しくなった。それは嫌なことではない。生きてきて初めてすこし楽しいとおもったのだ。それでも時間がびっくりするほど削られる。早く、あいつを捜さないといけない。だけど、それが怖くもあり、忙しさを理由に先へとのばす。こんなんだと裏切られるという不安がよぎって美藤は胸元にさげた指輪を強く握った。

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