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平和な日常 1

 学校に入ってから数週間がたった。横尾らは外部生ってことで最初は避けられていたけども、無事にうちとけるようになっていた。  横尾はそこまで友達に価値をおかない人間だが、いないよりはいる方がいいとは思ってるし、愛想はよいほうだ。最初の方で友達になった東がコミュ力の固まりだったたのも幸いだったかもしれない。どうやら特殊な事情を持っていた新見も本人は無害でかわいいのも大きいだろう。クラスにはうちとけ始めたけど、相性が良かったのもあって、エスカレーターなのに新聞部ということでちょっとハブられていた依田を入れて横尾たちはよく四人で行動していた。  いつものように横尾たちはいつものメンバーの四人で昼食をとっていた。 「平和だな」  横尾は作ってきた弁当の和え物を食しながら言った。無事クラスには打ち解けたし、勉強もついていけそうだ。家事も、もともと料理も掃除も洗濯も自分でできたからなんの不便もない。今日の弁当も昨日の夕飯の残りだ。 「そうだね」  新見はそう言ってのほほんと紅茶を飲んでいる。新見は複雑な環境にいるはずだけど、本人がそう言うのだから平和なのだろう。彼はいつも朝市でちょっと高そうなパンかサンドイッチを買ってきて水筒に紅茶をもってきている。見た目通りな選択だ。 「高校生になったからって、実際、そんなにかわらないよな。こんな場所に寮だと、問題も起きるものも起きないだろう」  東は奨学生でお金がないと言っていて、いつも昼はお弁当だ。男の料理で、だいたいタッパーにチャーハンとかピラフとか中華丼とか持ってきている。今日は白いごはんに唐揚げがのっていた。 「全然、平和じゃないし!」 ほのぼのと飯を食ってると、突然依田がそう叫んだ。彼はだいたい売店でお弁当かパンを買っている。 「うっせーわ」 「ほんと、まじでやばいんだって、殺される」  横尾が野次を飛ばしても依田はまったく聞いてない。依田はこのメンバーで唯一のエスカレーターで一番変わりない日々を送っているはずなのにいつもせわしない。 「おおげさな。どうせまた部活のことだろ」 「だってーさー」 「依田君たいへんだねー」  いつも依田はうだうだと愚痴っていて、横尾は完全にあきれている。それでも新見は依田の頭をなでて励ましているのだから天使なのかもしれない。 「お前、向いてないんじゃないの」 「これからだ、これから」  依田はまさに苦汁を飲むという手本のような顔をした。本人も向いてないことをよくわかっている。それでも新聞部の副部長が恩人でやめられないのだ。 「冗談じゃなくて、副部長まじでこわいんだよ。なんかネタありませんか?! 美浪とか、どう?!」 「うーん。ないなぁ」 新見はないというけど、一応、考えてうんうんと唸っている。 「あんな部屋に住んでて無いことはないだろお」 「でもみんな、優しいし。昨日もゲームとかしたし」 「なにそれ?! くわしく!!」  新見が寮の部屋で同室の生徒とゲームしているという事実が、依田の何かに触れたようだ。依田は喜んで取材した。  東はもう弁当を食べ終わったようだ。横尾ももう食べ終わっていて、一服、といった空気になる。 「横尾はなにか部活入らないの?」 新見と依田は盛り上がっているので、東が横尾に話しかける。 「俺は別に。東は?」 「俺も別にないな。あんまり運動得意じゃないし、かといって、文化部もそれほど興味ないし。勉強しないといけないしね」 「たいへんだな」  依田と新見が話してるのを見つつ、横尾と東はゆるい会話をした。本当に平和だ。こうも平和だとなにか刺激的なことがほしいけど、なかなかそうはいかない。 「ありがと! これで一個かけるわ!」 「そんな仲良くゲームした話でいいの?」 「あぁ、俺のとこは大丈夫」 依田の取材は終ったようだ。 「そんなんでいいの? なんか新聞部ってえげついイメージあったけど」 二人の話を聞いていた横尾が聞いた。新聞部は部員が多く、活動は名前の通り、新聞発行と、昼休みの学内放送だ。新聞はいくつか種類があるが、週刊誌のようなゴシップなネタが多いイメージがある。実際、横尾は玄関でもらった号外がえげつない内容だったことがある。 「新聞部にも派閥があってさ。えげついネタをかく派閥もあるよ。おもしろければ何ぼってかんじ。プライベートとかあったもんじゃないみたいな」 依田は嫌悪感をまるだしに非難している。その派閥が嫌いなんだろう。 「依田は違うのか?」 「俺は晴々新聞だから」 「晴々?」 「新聞部でも派閥によって作ってる新聞が違うんだよ」 「へぇー」 「他にどんなのがあるんだ?」  きいといてなんだが、あんまり興味はない。逆に東が興味深そうにきいたので横尾は聞き手に回った。

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