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「追っかけてきた人?」
東がはてなマークを浮かべた。続けて新見が不思議そうな顔をした。
「あれ?隠してた」
依田はとくにわるびれることもなくひょうひょうと笑った。依田は普段ひびりな癖に仲間内では態度がでかい。
「隠してないけど」
横尾は実際に隠してたわけじゃないが、依田にちょっといらだったので足でふくらはぎを蹴った。
「ヨコ、家遠いのに知り合いいるんだね」
「あぁ、まぁ。幼なじみ」
「追っかけてくるなんて仲良かったんだ。会いたいな」
新見はなんの邪念もしらないといった顔をしている。
「ごめん。俺もまだ、会ってないんだ。別れしな結構ひどいことしたから嫌われたかも」
「そうなんだ。早く仲直りしないとね」
「そうな」
横尾は別れの場面を思い出した。そうだ。なかなかに理不尽な話だった。それでもたぶん嫌われてはいないはずだ。でも、自分からは謝らない。横尾は怒っていたのだ。
「名前は?」
「それがヨコ教えてくれねーの。でもイケメンなんだって」
横尾が新見にこたえる前に依田が答えた。
依田はさっきまでゴシップ嫌いみたいな顔をしていたのに、今はとてもいきいきしている。
「喧嘩したしね、隠れてんの。どこからばれるかわからないだろ。ごめんな」
「頑固ものだなー」
新美は間延びした話し方をするのでその呆れたような声も愛らしい。
「おれ、その幼なじみを越えるイケメンにまだあってないけど、美浪はレベルでは同列だわ。ベクトル違うけど」
横尾がじっと見ると新見は反応に困っている。
新美は顔もかわいいけど、特にしぐさがかわいいのだ。
「それでさ、ここにイケメン図鑑」
依田が雑誌の山から一冊の冊子を出す。言われた通り20××年イケメン図鑑と書いてある。
「最低なネーミングセンスだな」
「代々これなんだ。今年のやつはまだだから去年のやつだけど、追いかけてきたってことは上級生だろ」
依田に渡されたので横尾はうけとった。
表紙はロゴだけで、1ページ目は会長だった。隠し撮りっぽいのもあるけど、カメラ目線のものもある。 紛れもなくイケメンだ。
「ここの会長イケメンだよね」
新見が横尾の手元を覗いた。
「かっこいいし、すげー人気あるよ。でもいい人だよ」
「会ったことあるの?」
「取材でついていったから」
依田は得意げに答えた。
「会長はイケメンじゃないと駄目とか?」
東も会話に入った。
東はいつも聞き手に回ってるけど話はちゃんと聞いている。そういうところもクラスから人気で頼れると信頼されているんだろう。
「ないけど、みんながみんな、全校生徒の人柄とか、わかんないでしょ。だから、顔と家柄がいい人が選ばれやすいね」
「それで生徒会ってうまく回るの?」
「将来、家継ぐとか自分の家のでかさをいい意味で自覚してるから人柄よくて仕事もできる会長の場合と、ありあまるお金で贅沢放題でわがままに過ごしてどうしょうもない会長の場合とがあるみたい」
「極端だな。今年はあたりなんだ」
「うん。今年は委員の人も、変わってるけど仕事はできる人が多いね」
東と新見と依田とが話している間に横尾はイケメン図鑑のページをめくっていった。
どのページも確かにみんなイケメンが載っている。典型的なジ〇ニ顔が多いのかと思ったら、大和魂!みたいないかついイケメンもいるし、好き嫌いが別れるような個性的なイケメンもいる。網羅し過ぎてて気持ち悪い。
それでも横尾はそもそも造形的に美しいもの、すなわちイケメンが好きなので批評しつつ楽しんで見ていた。好みの顔がいれば、髪やコーディネートを自分の中で想像して楽しんだ。
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