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「美藤さんは、イケメン図鑑に載ってたから、見覚えあるかも。顔だけなら極上だけど、怖いから近づきがたい感じ。噂できれて、生えてる木を回し蹴りで折ったって話もあるし。二年にあがって、七組はいったから、さらに雲の上ってかんじかな」
「依田、目いいな。俺、全然みえないわ」
東はメガネをかけてもそこまで視力はよくない。ましてやもう夜前でくらい。美浪も顔までは認識できなかった。
言っているまにバスに乗って三人は見えなくなった。
「俺も暗いし、遠いしで顔は見れなかったわ。そんなにイケメンなら損した」
横尾は三人が見えなくなってから、そう述べた。
「たしかに、もう暗いな」
空を見上げると日は落ちて、暗くなる前の鈍い青色になっていた。
新見が時計を見た。
「図書館いつまで開いてるの?」
「八時に閉まるから、うわ、もうすぐだ」
「早くしようぜ」
四人は小走りで図書館に向かった。
図書館はしまる間際だったが、館内の案内をしてもらうことになった。中は見回れて、依田はずっと携帯にうっていて、なんどか転びかけていた。
「やぁー、いっぱいネタできたわ。今週どころか、来週も行けそう」
「よかったな」
「ほんと、みんなには感謝するわ」
依田は本当にうれしいのか満面の笑みを振りまいて、横尾にきもいと言われた。
「じゃあ、今日は、解散ということで、またな」
明日は普通に学校で、朝も早い。今日はなかなかの過密スケジュールだったので、四人は寮に着くなり解散した。
「ただいま」
「おかえり」
横尾が部屋に戻ると、同室の難波がベッドに横になっていた。基本的に寮は十畳ほどのワンルームを二人で使うことになっている。標準はベッドが二つと勉強机が二つのみだけど、持ち込みは可だ。他にはきれいな簡易キッチンに、家電は電子レンジとポットのみついてくるようだ。
「難波、居るの珍しいな」
「たまにはおるよ。横尾おったら、なんかつくってもらおう思たけど、おらんかったから、冷蔵庫にあったなんかいろいろ食ったで」
難波は名前の通り、大阪出身でばりばりの大阪弁だ。同じく編入組だけど、クラスは違う。早くも、友達が多くいるらしく、遊びに言ってばかりなので、あまり部屋にはいない。
「あぁ、ありがと」
「……普通に食べてよかったんやな。お礼言われるとは」
「昨日の残り物だから、処理してくれてってこと。でもメインなかっただろ」
横尾は料理することを仕事にしている職業を目の当たりにしてきたので、自分の作ったものを食べてもらうというのは、喜ばしいものだと刷り込まれきた。それが自然に自分の口から出て恥ずかしい。
横尾はいつも前菜料理を一度にいっぱい作る。一日に数品作ると、つねに何品か冷蔵庫にあるので、たくさんの野菜がバランス良く食べれるのだ。あとは白米を炊いて、メインに魚か肉を焼けばいいのである。
「実は今までも冷蔵庫にあったやつ、ちょこちょこつまんどって野菜しかないって知ってたから、唐揚げとおにぎりだけ買っててん。いいかんじになったわ。横尾、料理うまいでな。なかなかおらんで高校生でこんだけつくれるやつ」
「ここに寮生なら、ひとり暮らしと一緒だし、作れるやつもいるだろ」
「一年はおらんおらんって。つくれたって大味やで。なんか今までしてたん」
「実家、旅館だったから見よう見まねで。まかないとかつくってた」
「すごいなー。俺、家の手伝いとかしたとことないわ」
時計を見るともうずいぶん遅い、ほおっておくと難波はしゃべり続けるので、そこで横尾は話を中断した。
「俺、シャワー行ってくる」
「いってらー。また、お腹すいたら食べさせてもらうわ。今度、なんかお礼するわな。だから、今度、上手いメインもつくって食わしてや」
「おおー」
タオルと着替えをもって、廊下に出る。この寮は大浴場が一階と、各階にシャワールームがあって、自室に風呂の設備はない。トイレも外に共通になっている。いわく、男子高校生が水回りの掃除をするわけがないから不衛生とのことだ。横尾はきれい好きなので憤慨だが、その他大勢の男子高校生は否定はできないだろうなと思った。
大浴場は、入浴時間が決まっているが、シャワールームは24時間営業だ。もうそろそろ、大浴場が閉まる時間なので、シャワールームに行く。
シャワールームは大きな部屋に並んでいて、手前に脱衣場が個室でついている。
空きが多く今はすいているようだった。
一つに横尾は入った。服を脱いで、シャワールームに入る。お湯を出して頭からかぶった。
今日は慌ただしかったが、新見もかわいく、東とも親交を深めて、そこそこ楽しかった。それでも、最後に見た、大学組の男、美藤を見たのは、今日の一日のなかで、一番大きなことといえるだろう。横尾は見えないと答えた通り、はっきりとは見えてはいなかったが、それでも横尾は、乗車口にいるのが、自分が突き放して、理不尽に探せと言った美藤だとわかった。横尾はもしかしたら、美藤が自分を見つけるんじゃないかという、突然開催されたドッキリに内心焦っていた。なんとか普通を装ったが、ほか三人にはばれなかったようだ。
美藤を見るのはそこまでひさしぶりでもない。まだ、あの日に別れてからまだ数か月もたっていない。美藤が去年、寮に入ってからは彼が長期休みに帰ってくるときにしか会っていなかったのだから、まだその頃の離れている時間の方が長い。それでも、横尾は美藤の姿を懐かしく感じた。
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