横尾の地元は温泉が有名な観光地である。横尾はその中でも老舗の有名な旅館の一人息子だ。そして、近くにある歓楽街のお店を経営してるのが、美藤由樹の父親である。歓楽街のお店なので、ラブホや、風俗、アダルトなことならなんでもやってる、いわゆる裏稼業のお店だった。そういう需要は温泉街にある旅館やホテルとは切っても切れない縁であり、旅館側からすれば疎ましくも思うが、仲が悪いのも困るといった間柄だった。 　 横尾も周辺の例にもれず両親に、あの家にはあまりかかわるなと言われていた。けれど、同じ保育園で初めて見た美藤由樹という子供は、えらくきれいな子供だった。 　横尾は思わず話しかけてみたら、その頃に早くもひねくれていた美藤はたいへんつれない態度だった。それでも、横尾は粘り強く接っした。いつもひとりの美藤に、先生たちも、もて余していたこともあり二人はよく一緒にいるようになり、美藤はわかりにくいが心を開いてくれているのだも横尾は思っていた。 美藤は母親と二人で住んでいる。よくよく知ると未婚で、歓楽街経営の父はいろんなとこにそうやって種付けしているそうだ。ただ認知はしていて最低限のお金は貰っているらしく、けして裕福ではないが、貧乏でもなかった。 　ただ、 美藤の家に横尾がいつ遊びにいっても母親はいなかった。美藤はいつもご飯を近くのコンビニで買っていた。 「ゆきちゃんいるー？」 小学生になって何年かがすぎた。ふたりで遊ぶことも多くなっていた。 　いつもの通り、呼び鈴を押して部屋に入った。チャイムを鳴らしたら、美藤はいつも鍵を開けに来るが、扉はあけずすぐに戻るので、美藤の背中をいつも横尾は追いかけた。 　1LDKのマンションのダイニングとキッチンはとてもものが少なくてモデルルームみたいな感じがする。ダイニングから続くリビングの間にはそのモデルルーム感をぶち壊すように、大きな布が天井に画鋲で吊られていて、リビングを隠していた。美藤の部屋はその奥のリビングで美藤はいつもそこでだらだらしてる。玄関脇の１ＬＤＫの１の部分が母親の部屋らしく横尾は入ったことはない。 横尾が遊びに来ても、美藤は特に何もせず床に引かれた布団に横になっている。 「飯、たべる？」 小学生も中ごろになると、横尾の家は息子にだんだんとルーズになっていたので、横尾は家のまかないや、余ってるもので適当に作った惣菜を持ってきて夕食を美藤と一緒に食べるようになっていた。 夕食時の旅館は忙しく、ここで食べるまではいつも祖母と食べていた。その祖母は少し前から入退院を繰り返していて、祖母がいないときは一人で食事をとっていた。別に気にしてないけど、親はそれを悪いと思ってるのかここで夕飯を持ってきて食べてもあからさまな注意は受けない。 ご飯を広げたす横尾に最初は嫌そうな顔をしていた美藤は横尾が寂しいからと言うと追い返さなくなった。 「最近のまかない、新入りさんが作ってて、野菜の飾り切り練習してるから質素なんだよね。若者にはもっと肉が必要なんだよ」 そう言って横尾は自分で作った肉団子の餡掛けをだす。 　美藤は開けたそばからそれをつまんだ。彼はこれが好きだ。すこしづつなつく美藤に横尾はほくそえんだ。 横尾は本来世話焼きな性格だったし、きれいなものが好きで、この美しい見た目の人間が自分になつくのはたいへん嬉しいことだった。 小学生も後半になったころ、美藤は問題をちょくちょく起こすようになっていた。美藤は普段、どちらかというとおとなしい。極度のめんどくさがりやともいう。でも何かの拍子に暴れた。もともと顔はきれいだが、きつい生意気な作りだし愛想も悪い。だんだんと悪い噂も増えてケンカもするようになって美藤の家に横尾が行ってもいないことも増えてきた。 　それでも拒否はされないから、横尾は彼の部屋に行き、いないときは、ご飯をノブに下げて帰った。